「すごいなー お城ってこんなに広いのか・・・」
高い天井を見上げてリンクが目を丸くし、
「そうかぁ〜? なんかこの城、ちょっとさびれてるッつーか、わりとレトロな感じじゃねぇ?」
建物や家具の装飾を一瞥してルークが眉をひそめ、
「いや、その感覚俺ちょっと納得できねーんだけど
ルークって意外といい身分だったりするのか?」
辺りにある手の込んだ意匠が施された内装や家具などを見てルークの発言に同意しかねるロイドが首をかしげる。
「意外は余計だッつの」
「で、ゼルダ姫は?」
ここは城内とはいえ、ただの廊下。巡回中の騎士か、時折談笑しながら複数で静々と歩いていく黒服に白エプロン姿の女性しかいない。
「さぁ? このさきかな?」
騎士たちの手薄としか言いようがない警備をくぐり抜け、城に辿り着いた一行は、裏手に見つけた小さな扉
もちろん鍵がかかっていたが、ロイドが開けた
から城の中に入った。
「早く見つけて話済ませねーと、見つかっちまったらヤバいって」
「そう、なのか?」
森のソトは初めてのリンクは、こう言うところの常識がよく分かっていなかった。
「こういうところは、王族を守るために警備がキビし―んだよ。見つかったら
」
「なっ!お前ら!!」
「
そう、こういう風に人を呼ばれて追い回されるハメに
ッて、ヤベ、見つかっちまった!」
「この小僧ども!どっから入って来やがった!」
兵士らしき男が、廊下の向こうからこちらへ走って来る。子ども相手に武器は少々大げさではあるが、がちゃりと槍を構え、3人を捕まえる腹だろう。
もちろん、捕まる気など毛頭ない。
「逃げろ!!」
ルークの一声で、走り出す3人と一匹。
「そっちに逃げたぞー!!」
後ろの兵士が叫ぶ。
「捕まえろ!絶対に逃がすなーーー!!!」
また、別の兵士。
次から次へとわいて来るようだ。
「マズいぞ、捕まったら、ここまで入ったのが全部パーになる!」
ルークが走りながら叫んだ。
「なんで!?」
「また賊が侵入してくるんじゃね−かってすげー警戒すんだよ。そうなると、たぶん今以上に厳重な警備網が敷かれちまって、すっげー厄介になる!」
確信できる。だってルーク自身がそうだったのだから。
「さっきルークが言ってたように、ゼルダ姫が外に出てくるのを待たないとならなくなるってこと?」
「それでいい方。最悪、ゼルダ姫が城から出るのを禁じられちまう!
そうなったらもう会う機会なんて完全になくなっちまうぞ!!」
ルークのその台詞に、リンクの心臓がどきりとはねる。
そんなコトになったら、デクの樹サマとの約束が・・・!
延びてくる兵士たちの腕をかわしつつ、廊下を突っ走る三人。
その先に、左右正面と、3つの分岐が見えてきた。
「ここは一旦バラけよう!」
ロイドが叫んだ。
「わかった!!」
リンクとルークが頷く。
近づく分岐路。
逃がすまいと延びてくる兵士たちの腕。
それらをこどもならではの身軽さと小さな体躯を利用してかわし、三人は一斉にそれぞれ別の廊下へ踏み込んだ。
ロイドは正面、ルークは右、そしてリンクは左へと、急に別れた標的に、一時とまどう兵士たち。
だが、さすがは城勤めの兵士といったところか、すぐに態勢を立て直し、3つのグループに別れて追いかけて来た。
正直言って、状況はそんなに変わってはいない。
お、おとなって速い・・・!
じわじわと近づいて来る兵士を背に、森育ちのリンクでも、そろそろ体力と気力の限界が近づいて来た。
「リンク!こういう時はデクの実だヨ!」
「そうか!」
ナビィの助言で、リンクは懐から掌大のものを取り出し、振り返ると、地面に思いっきりそれを叩き付けた。
パン!
乾いた音とともにほとばしる閃光。デクの実は森の中で魔物と遭遇したときにコキリ族が使う護身用の目くらましだ。閃光で騎士の目が眩んだこの隙に、逃げ切れれば
「リンク!こっち!! 」
ナビィの声に振り返ると、そこには半開きになったドア。
決死の思いでその中に滑り込み、兵士たちから見えないように壁に張り付いた。
ドアの向こうから廊下を走り抜ける足音。
心臓の音がうるさい。
ぎゅっと目を閉じて、息を止める。
どれくらいそうしていただろう。
足音が完全に消えて、ようやく全ての息を吐き出した。
「ふー・・・ 助かったぁ・・・
ありがとう、ナビィ」
緊張の糸が切れ、壁にもたれながらへなへなと座り込んだ。
「開いてる部屋があってよかった。ここ、何だろう」
リンクは顔を上げ、息を整えつつ忍び込んだ部屋を見渡した。
そこは、大小さまざまな箱や、樽などが置かれた部屋だった。
隅の方には、ロンロン牧場の寝室の床などに敷かれていたものよりずっと凝った意匠の絨毯が巻かれた状態でいくつか立てかけられている。その薄暗い部屋を唯一色づけているのは、リンクの背では届かないところに点々と続く小さな窓からのヒカリ。この薄暗い部屋で、そのヒカリだけが部屋を照らすものとなっている。
「物置、みたいだネ」
そんな部屋を、ナビィが一通り見回していく。
「もしかして、こういうところなら隠れるところもいっぱいあるんじゃないか?他にもないか、探してみようよ!」
「そっか、こういうところに隠れながら、ゼルダ姫を捜すんだネ!?」
「そういうコト!ナビィなら、おとなに見つからないように行くなんて簡単だろ?隠れて、探して、見つけて、移動する!それを繰り返すんだ」
「すごいすごーい!」
ぶんぶんと上下に飛んで、はしゃぐナビィ。それを見て、リンクも顔がほころぶ。
「まずは、一度みんなで集まれればいいんだけど・・・ナビィ、ふたりをさがして来れる?」
「まかせて!」
そう言ってひとつ頷くと、ナビィは、微かに開いたドアを器用にすり抜け飛んで行った。