ガシャン
三人と一匹の前で、無情にも鉄柵でできた大きな門は閉じられた。
門の前には、銀の鎧と兜を着た兵士が2人、各々の手に長槍を持って立つ。
ノイシュが運んで来た牛乳瓶の箱は、策の向こうからやって来た手押し車に積み直され、城の兵士に運ばれて行く。
「だめだって・・・」
門番からいくらか離れたところで、リンクが言った。
「くそ〜 牛乳持って入れば会えると思ったのに・・・!」
地団駄踏むロイド。手みやげがあれば、城門の中へ入れるとふんでいたのだ。
「
当たり前だろ!おかしいと思ったんだ。別の世界から来たっつー奴が、いきなり一国のお姫様に会おうなんて無理だっつーの!」
ルークが全力でツッコミを入れた。
「え?王様とかッて、こうやって、何か物を持って入っていったら会えるんじゃないのか?」
俺が前に会った王様には、こうやって会いにいけたけど。
「ちげーよ!王族<国のトップ>がそんなことで会ってくれるワケねーだろ!!」
何その情報。あながち間違ってねーけどなんかおかしい!
ルークは頭を抱えたくなった。
王族ってどう思われてんだよ・・・
「ちゃんと事前に書状書いて、了承を得てからやっと謁見できるもんなんだよ!
あと身だしなみとか、それなりの身の証明とか、王族だってヒマじゃネーから都合とかきっちり調整しねーとだし、他にも色々あんだよ」
「えー!?なんだよ、それ。めんどくせー!」
「そうでもしねーとヤベー奴らに王様狙われちまうだろ!つーか、なんでそんな方法で謁見できてんだよ!おかしーッつーの!」
えー、とロイドが口を尖らせる。
ルークの言う書状を書くとか言うのはよく分からないが、リンクもロイドと一緒にむくれる。遠くてよく分からないが、ちらりと見れば、門番たちは何やら楽しげに話をしているようだ。ちょっとくらい、中に入れてくれたっていいじゃないかと、リンクは思った。
「とにかく、こうなった以上そのゼルダ姫ってのが散歩に出るのを待ってだな
」
「そんなの待ってられるかよ、ここはいっそ忍び込んじまおうぜ」
ルークの提案にロイドが別の提案で示した。
忍び込む、かぁ・・・
ロイドの案をぼんやり耳にしながら、リンクは周りを見た。城下町から続くこの路は、左右を小高い崖に挟まれた場所で、ほぼ垂直に近い。岩肌をのぼるなんて事は不可能だ。何か足がかりになるようなモノでもあればハナシは別だが・・・
例えば、そう、あそこにある木とかツタのような
「あのな、城の警備ってマジキツいんだ。そんなところにノコノコ入って行ける訳ネーだろ。ここは大人しく出てくんのを待ってようぜ」
長いため息をつきつつ、ルークが言った。
「でも、俺が知ってるお姫様は、滅多に城から出て来ないみたいだったぞ?ここのゼルダって奴もそうなんじゃねーか?」
「人によるだろ?おれが知ってる王女は自分から率先して世界中を飛び回ってたぜ?」
バチバチと火花散るルークとロイド。いつの間にか喧嘩に発展しそうな雰囲気だ。
「ふたりともー」
そんな2人に、リンクの声がふって来た。
2人がさっきまでリンクがいたはずの場所を振り返っても、そこにリンクの姿はない。
「こっちこっち」
声のするままに2人は上を向いた。崖の上には、いつの間に登ったのだろう、リンクが手を振っている。
「こっちから門の向こうに行けそうだよ!」
そう言うリンクのいる場所には、足がかりになりそうな木とツタ。しかもそれがあるのは門番の兵士からは死角になっている場所だった。崖の上にも兵士が立っている様子はない。
「
でかしたリンク!」
ロイドが親指を立てた。
「あ、でもノイシュどうしようか?」
リンクは、彼がいる崖のそばに寄って来たロイドと、それに続くようについてきたノイシュを見て言った。
「大丈夫だろ
ノイシュ、ここで待っててくれよな。俺たちちょっと行ってくっから」
わっふ
ぽんぽん、とノイシュの首もとをたたいてやると、わかった、と言わんばかりにノイシュがひとつ吠えた。
「おっし」
ノイシュの返事に、意気揚々とツタに手をかけるロイド。
「・・・・・・」
ルークは軽く落ち込んでいた。
城、もとい、王族が住まう建物に敷かれる警備の堅さはよく知っていると思っていた。
ダテに七年間も、自分の家に軟禁されていない。もちろん何度か抜け出すことに挑戦したことだってある。その度に邸のメイドだとか、お世話係で親友のガイとか、警備の騎士とか、ガイとか、庭師のペールとか、ガイとか
アレ?ガイばっかか? に見つかってあえなく断念してきた。
それなのに、
これだ。
「何してんだルーク、行くぞ」
木とツタを足がかりにしながら、途中でこちらを見たロイドがルークに声をかける。
おれんちの白光騎士団がキツすぎるのか、ここの警備が緩すぎるのか。後者の可能性が高いけど
つーかおれの七年間の生活って・・・
やべ、なんか泣きそうなんだけど・・・
「ガキに突破されちまうなんてどんだけザル警備だよ・・・」
一応、王族に名を連ねるルーク子爵は本気で嘆いた。