3 草笛と円舞曲<ワルツ> - 3,白い壁

「これでよし。できたぜ、タロンさん」

そう言ってロイドは、荷馬車の車輪を軽くたたいた。

「助かっただ〜よ」

不具合がなくなり、元のものより立派に治った車輪を見てタロンが関心の声をあげた。


「この前の帰りに魔物に襲われちまって車輪が一本いかれちまっただ〜。それがすっかり見違えちまって」

い〜い腕してるだ〜


「いいって。『ドワーフの誓い第2番ーーー困っている人を見かけたら、必ず手を貸そう』     ってな。困ったときはお互い様だろ」


「ロイドって本当に器用だよなぁ」

ルークは荷台に肩肘をついてその様子を見ていた。

「リンクのパチンコも直しちまったし、料理もできるし、ついでに曲芸だって(?)お手の物ってか」


※曲芸・・・コキリの森のお祭で見せた剣舞のこと


「うん、何だか魔法みたいだ」

「魔法じゃねーって」

ロイドが、修理の済んだ車輪の具合を見ながら言った。

「俺の親父が細工師なんだけどさ、仕事で村におりたりするとよくこういう壊れたものの修理とかも請け負ってたんだ。俺もよく手伝わされて     そのうち覚えちまっただけだよ。それに、親父にはまだまだ及ばないしな」

「それなら、ロイドのおやじさんも魔法使いなの?」

「親父が魔法使いか・・・案外外れてないかもな!」

ロイドがまんざらでもない顔をして答えた。

「え!?前はドワーフって種族ッつってなかったか?」

「リンク、細工師さんはネ、そう言うのじゃなくて・・・」

ナビィが訂正する。どうもこの面子、普段は傍観を決め込むはずの妖精ですら口を出すほどツッコミが乏しいようだ。


「そうだぜ坊主、本当の魔法使いってんなら俺をもっと楽させてくれるハズだ」

どかっと牛乳の大瓶を荷台に載せて、鼻の大きくて痩せた男(それでも腹は出ている)が愚痴った。

「あ、インゴーさん」

マロンがひょいっと荷台の後ろを覗き込む。


背丈はタロンよりちょっと大きなくらい。口髭は鋭角で、先端が上を向いている。桃色のオーバーオールに緑のシャツを着ていた。男の人なのに、なよっと内股だった。

「朝から晩まで納屋の掃除に餌やり水汲み・・・     インゴー牧場に改名しろーってんだ!」

そう言って大きな牛乳瓶に入ったラベル(ロンロン牧場と明記されている)をペシペシとたたいた。

「ふふふ、そうだね、インゴーさん、おとーさんよりもがんばってくれてるもんね!」

マロンがインゴーをはやす。

「そうだろそうだろ大体俺様はよー」と、有頂天になるインゴー。けっこういいペースで牛乳瓶を積んで行く。


あんな変な体勢で重い物持ってぎっくり腰とかにならないと良いが・・・


「俺たちも何か手伝おうぜ。一晩泊めてもらったお礼に」

ロイドの提案。


「おう!」
「おー!」


楽しげな子どもの声。

そして

直後、牧場にこだまする程大きなインゴーの悲鳴が上がるのはお約束だ。

それからほどなくして、積むべき荷物を乗せた馬車の荷台に、リンクとルークはいた。馬車に繋がる二頭の馬の手綱を握るのはタロン。その隣には、いくつかの荷物を背負ったノイシュと、それにまたがるロイドがいる。


「それじゃあね、妖精クン、剣士クン、それにネボスケクン」

(「ネボスケ、っておれのことかよ!?」とルークがツっこんだ)


「近くを通ったら、また来てね。エポナも、馬たちも待ってるわ!」

マロンとエポナに見送られて、馬車が走り出す。ノイシュもそれに合わせて走り出した。


あっという間に遠くなっていくロンロン牧場。

軽やかに、しかしその足どりは人のものより速く。踏み固められた道をタロンが操る馬車が行く。

小さな看板を道の脇に見て、他の道と合流して。

やがて小さな丘を登って行く。


二頭の馬の足取りは重くなりながらも、丘のてっぺんにたどり着いた。

急に開ける視界。丘の向こうに見えてきたのは、白い壁に護られるように広がる、大きな町。


その向こうに霞がかってそびえる、三角屋根の建物。


「タロンさん、あれ、城壁だよな?     てことは、あの向こうに建ってる建物は、城か?」

ルークが荷台から、御者の席へ身を乗り出した。

「そうだーよ。ハイラルのお城だー」

タロンが答えた。

「あそこはここ、ハイラルの中心になってるだー」


そう話している間にも、どんどん白い壁は近付いてくる。

その白い壁     城壁は、手前側が川になっていた。

川には大きな板みたいな橋が架かっていて、こちら側の岸から城壁の上の方まで鎖でつながれている。その橋を渡ると城壁の向こうへ入れるようになっているらしい。


「ヘー、吊り橋か」

「んだ。夜になったらこいつが上がって、魔物が町の中に入って来れねーようにするんだーよ」

ルークとタロンが、そんなたわいのない話をしているうちに、馬車はゴトゴトと音を立てて橋を渡っていく。リンクは吊り橋の鎖を追って城壁の上の方を見た。


3つの三角の下に、鳥が広げているような形の翼が描かれた紋様が目に入る     

「ようこそ、ハイラル城下町へ」

陽気な男の声で、リンクははっと我に返った。



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