かぽ かぽ かぽ
地面を優雅に歩く蹄の音。時折聞こえてくるその音は、よく晴れた空に響き、とても気持ちがいい。
高い丸太の柵でぐるりと囲まれた、ロンロン牧場の広い草原の一角にある木の下で、
彼(?)は主人を待っていた。
おかしな光に包まれて、気付けば見知らぬ別世界。永きをともにした主人と離れ、モンスターに襲われ負傷して。それでも懸命に逃げまくって、偶然通りかかった優しい人に救われた。
世界を満たす、穏やかなマナの香りに安心する事はあったけれど。
何もかも違う世界が、心細くない訳ではなかった。
もう、主人に会う事はできないかもしれないと、嫌な考えばかりが頭を過ぎて。
怖くて、怖くてたまらなかった。
けれど奇跡は起きて、彼(?)は、再び主人と会う事ができた。
二三日ぶりに再会した主人は、何やらなつかしい姿をしていたが。ただ、また会えた事に
彼(?)はとても 嬉しかった。
朝食を終えて、ロイドの案内のもと、そのロイドの『家族』に会いに行った一行は、紹介された彼(?)を見て、思わず絶句した。
いや、思わず立ち尽くすしかなかった、というべきか。
何しろ紹介されたそれは、人が何人か余裕で乗れるのではないかという程大きな・・・
わふっ
「こいつだよ。ノイシュって言うんだ」
かわいい犬だろ
そう言って得意げにノイシュの背をさするロイドだが。
「それ、犬、なのか・・・?」
「犬、って大きいんだな」
「ナビィ、犬じゃないと思う・・・」
上から、ルーク、リンク、そしてナビィの感想。
普通犬というものは、大きいものでも人の腰くらいの大きさしかないハズ。なので間違っても今目の前にいるノイシュのような、おとなの身長より大きな体格のものを、犬と呼ぶのは何か違う。鳴き声的には、オオカミだろうか?(サイズとしては、その辺でかぽかぽ歩いている馬と同じか、少し小さいくらいだ)大きな耳は鳥の翼みたいな形をしていて、耳と尾の先と首周りがミドリ色の白い獣だ。黒い目は、確かにかわいいが・・・
「なんか、別の世界に来てもおまえ、犬じゃないって言われちまうな・・・」
なんでだろ
(ここにセイジ姉弟がいれば、間違いなく犬ではないと否定してくれるだろうが、残念ながらここには来ていない)
「こ、こんにちは?」
ク、クゥーン・・・
リンクが手をのばすと、ノイシュと呼ばれた大きな犬(?)は、さっとロイドの後ろに隠れてしまった。
情けない声をあげて。
「こいつ、臆病なんだ」
一回懐いた相手にはそうでもないんだけど・・・
「コレのせいで、アタシもなかなかこのコのそばに近付けなかったのよネ」
ついてきたマロンが言った。
「こー わー くー ヌェ〜・・・
ぞ! ッッと、ダメか」
ルークがゆっくり近付き、飛びつこうとするが、あっさり避けられてしまう。
臆病、と言うより、極度の人見知りともみえる。
うーん、と唸って考えて。
「そうだ」
とリンクは、おもむろにオカリナを取り出した。
「
いっくぞ〜」
そう言ってイタズラっぽく笑うと、大きく息を吸い込み、オカリナを吹いた。
軽快なリズムが、牧場にこだまする。
「わ、妖精クン、スゴーい!」
「この曲・・・」
サリアが森で吹いていた曲だ。
楽しげな曲に、ノイシュが興味を示した。
もう少し
一周、二周して、三周目にさしかかる、というところで、リンクの腕を、何かがつついた。思わず演奏の手を止める。
ノイシュではない。
ノイシュは、その正体を見るや否や、ロイドの後ろに再び隠れてしまったから。
「あ、エポナ」
リンクに寄ってきたものを見て、マロンが近づいて来た。リンクの後ろにいたそれは、応えるようにマロンにその鼻面を寄せる。
牧場を優雅に散歩する、赤毛の馬だった。ただし、その目線はリンク達と同じくらいとその辺の奴よりもずっと小柄だ。マロン曰く、女の仔らしい。
「そっか、エポナは音楽が大好きだもんね。妖精クンのオカリナにつられてきちゃったみたい」
「へー、エポナって名前なのか、この犬」
「ロイド?」
馬って、言ったよな、今
あんがい天然だったり?
ロイドの定義するところの『犬』とは、一体どこまでのものなのか・・・
親の顔が見てみて―かも