夢を見た
真白な壁に囲まれた、
とてもきれいな場所だった
石で区切られた小さな川
森の中では見かけない、鮮やかな色の花
見上げれば青い空が覗く
そこは知らないところだった
自分の隣には
きれいな女の子がひとりいる
オレはその女の子の隣で
笑ってるんだ
でも、
その子の顔が見えない
その子と話をしているはずなのに
その子の声が聞こえない
だけど
そんなことは気にならないくらい
やさしくて
あたたかくて
ヒカリに満ちた
そんな
幸せな夢だった・・・
遠くから、くぐもった動物の鳴き声が聞こえてきた。
鳥の鳴き声とも違う
何の動物だろう
でも、この鳴き声、どこかで・・・
どこ だっけ
「リンク!ルーク!朝だぞ、起きろ!」
その声に驚いて、ハッと目を開ける。もぞもぞと毛布から顔を出すと視界に入ってくる、濃い鳶色の髪の少年。
「ロイド?」
「よ、起きたな」
おはよう
て、ルークもネボスケかよ
おきろー!
ロイドがルークを起こしている間に、目をこすりながら身体を起こした。すると、大小二対の薄羽を持つ白いヒカリの珠が、リンクのもとにシュッと飛んで来た。この前ようやく、リンクのもとにやって来た、念願の妖精
ナビィだ。
「おはよう、ナビィ」
「おはよ、リンク」
何気ない会話が嬉しい。挨拶が済むと、ナビィはくるくるとリンクの周りを踊るように飛び、彼の帽子に収まった。
ひとつのびをして、今いる場所を見回す。
目に入ってきたのは、いつもの巨木をくりぬいたような造りの自分の家ではなくて。
まっすぐに整えられた白い壁の部屋。木を小洒落た形に削ってつくられた、棚や椅子やテーブルがおいてある部屋だ。床には、何だかくしゃくしゃとフクザツに模様の入った、もこもこしたものが敷かれている。
今まで寝ていたベッドだってリンクのうちのものよりずっとふかふかで。
森を出てから見るもの触るもの何もかもが珍しくてきょろきょろしていると、キィッと木の板、もとい、ドアが開いて、向こうからリンクに彼の身長を4分の1ほど足したくらいの高さの、鼻の大きなひげの男が入ってきた。ちなみに横幅はリンクの倍はある。
「起きただ〜か?朝飯ができてるだ〜よ」
気の抜けた言い回しで、そのおとなのヒト、タロンさんが挨拶する。リンクもぺこりと軽く頭を下げて挨拶を返した。
そうだ、ここは、ロンロン牧場というところだっけ。
平原を歩いていたところを、大きな赤毛の動物
馬って言うらしい。初めて見た!
が引いた馬車が通りかかったんだ。乗っていたタロンさんに、一晩泊まってもいいって言われて、『おコトバにあまえた』んだった。
階段を下り、一旦外に出て水場で顔を洗う。水が冷たくて気持ちいい。それを終えて大きく深呼吸。そして昨日泊まった建物を見上げた。
まだ低い位置にあるお日様の光を浴びて、空に映える赤い屋根。白く、まっすぐに整えられた壁。その壁にはめ込まれた透明な板。
朝特有のきりっとした空気は、いつも起きる時間よりちょっと早いみたいだと教えてくれるけれど、コキリの森の朝と違って靄もなく、からっと晴れていた。
昨日、そう、昨日のことだ
あんなことがあったとは信じられない、おだやかな蒼い空。
いっそ、あれは全て嘘なのではないか、と思いたくなる。
けれど
リンクは、ポーチの中に大事にしまっていた包みを取り出し、開いた。中から出て来たのは、若葉色にひかる石を抱いた、コキリのヒスイ
森の精霊石だ。
金色の金属は、渦巻いた風を2筋で現したような形をした、コキリの紋章を象っている。
それから、亜麻色のオカリナ。
部屋には、精霊石と同じ紋が入った盾(こちらは朱色で、筆書きのようなかんじ)があるはずだ。
ふと顔を上げれば視界に入ってくる、森では見ることのない、この白い建物。
夢じゃないんだ。
念願の相棒ができたことも
ロイドとルークと一緒に森を出て来たことも
サリアからオカリナをもらったことも
そして
デクの樹サマが、死んでしまったことも
ぎゅっ、と、コキリのヒスイを握りしめる。
胸に沸き上がるこの感情が、一体何なのかわからないけれど。だからこそ、もどかしいけれど。
リンクは、そっと、もとのようにコキリのヒスイを布で包み、ポーチにしまうと、建物の中に戻った。
「あ、オハヨー妖精クン!」
元気のよい声に、顔を上げる。
そこには、ゴトゴトと椅子を運ぶ女の子が、家の奥の方から出て来るところだった。さっきのタロンさんのこどものマロンだ。腰まで届く、癖っけのある栗色の髪に、白いワンピース。襟元にはお日様色のスカーフをしていた。
ちょっと手伝ってと言われて、リンクも椅子を運ぶのを手伝う。居間にあるテーブルまで持っていくと(途中、まだ眠気が取れないらしいルークを、半ばひきずるようにして歩くロイドとすれちがった)、すでに『りょうり』が並んでいた。どれも美味しそうだ。
「こっちはとーさんとマロンが、こっちは剣士クンが作ってくれたんだよ」
「剣士クンって・・・ロイドのこと?」
すでに起きていたのは、3人(ナビィも入れると4人かな・・・)の中でロイドだけだったから。どうやら当たったらしい。マロンが頷いた。
「うん、なんかね、陽が昇るくらいから剣の稽古してたのよ」
「
そんなに早くから!?」
驚いた。確かに、コキリの森にいたときも、リンクよりずっと早くに起きていた事は聞いていたが、まさか太陽と一緒とは思わなかった。しかも剣の稽古してたとか
もともと強いと思ってたけど・・・
やっぱり、強くなるには、それなりにがんばらなきゃいけないんだな・・・
「何かお手伝いすることないかって。そしたら、こうやって朝ゴハン作ってくれたの、すごいよね?」
バタン、と扉が閉まる音がして、振り向く。ロイドとルークが入ってきた。髪がちょっとぬれているところを見ると、ルークもすでに顔を洗ってしまったあとらしい。
「あ、剣士クン!手伝ってくれてありがとう!」
とっても美味しそうよ!
すかさずマロンがお礼を言う。
「いや、いいって、むしろお礼を言いたいのはこっちの方だからさ。助けてくれてありがとな」
「助けるって、何かあったのか?」
意外な返事に、問いかけたのはルーク。
「ああ、あとで紹介するよ。あいつも、俺たちがこの世界に飛ばされた時に一緒に来てたらしくってさ」
場所は、大分ズレちまったみたいだけど
「ロイドの知り合いも来てたんだ」
興味津々にリンクが聞くとロイドは、こくりと頷いて
「俺の、家族なんだ」
と、嬉しそうに言った。
「へぇ、ロイドの家族かぁ・・・」
どんなヒトなのかな