振り返るとそこにいたのはやはり、サリアだった。
「サリア!」
思わず足を止める。
「行っちゃうのね」
出迎えにいなかったのを思い出す。いつもなら、ミドがあんなことを言う前に止めに入ってくれるサリア。
「リンク、ソトの世界のこと、知りたがってたものね」
そして、いつもヒトの気持ちを言い当ててくれる。
「・・・うん」
サリアには何でもお見通しだな。
「デクの樹サマに言われた、のもあるけど」
少しだけうつむき、ぱっと顔を上げる。
「やっぱりオレ、どうしてもこの目で、ソトの世界を見てみたいんだ」
やっぱり、最後は笑顔で行きたかった。
「サリア、わかってた・・・」
いつかきっと、こんな日が来るんじゃないかって
もしかしたら、リンクは・・・
アタシたちとちがうかもしれないって・・・
「サリア・・・?」
不自然に途切れた言葉。
けれども顔を上げたサリアは、微笑んでいた。
「でも、そんなのどうでもいい。あたしたちずーっとトモダチ!そうでしょ?」
だから
「このオカリナ、あげる
大切にしてネ」
そっと差し出されたオカリナ。見覚えのあるそれは。
「でもサリア、これって」
サリアの宝物じゃなかったっけ・・・?
そう言うとサリアは、ひとつ頷いて
リンクに持っていてほしいからと言った。
そっと受け取る小さなオカリナ。亜麻色の本体におそらく葉っぱを模したのだろう三角形がひとつだけついている。
「
オカリナふいて思い出したら、かえってきてネ」
泣くのをこらえた、笑顔だった。
リンクは、後ずさるように一歩踏み出し、わき目もふらずにダッと走り出した。
背中には森の宝刀、コキリの剣と、ミドが作ったデクの盾。
懐には森の精霊石に、サリアからもらった妖精のオカリナ。
ふたりの親友から受け取った宝を纏って。
「サリア!リンクは・・・」
不意にかけられた声。振り返らなくてもわかる。リンクを追いかけてきたのだろう。少しだけ息が乱れている。
「先に行っちゃった」
振り返り、答える。なんとか泣かずにすんだ。
「げ、マジかよ」
「急ごうぜ」
ミドとも約束したもんな
「ロイド、ルーク」
走りかけたふたりを、サリアが呼び止めた。ルークもロイドも、デクの樹サマの言ったようにハイラルのお城とやらに行くのなら。
振り返るふたり。そのふたりにふわりと微笑んで。
「リンクを、おねがいネ」
「おう!」
「まかしとけ!」
そう笑顔で言って、駆け出すふたり。
サリアはずっと、3人が去って行った方を見つめていた。
橋からどれだけ走っただろう。
森の中は、橋を渡る前とは違い明るく、いつの間にか霧も消えていた。木漏れ日が差し込む森。鳥のさえずりが響く。
だんだん木々が少なくなるのがわかる。
出口が近い。
草が伸びて地面をおおう。
その深い茂みをガサガサとかきわけて。
ついに、森が開ける。
その光景に、目を奪われた。
「
広い・・・!」
そこは、見渡すかぎりの草原。
全天を覆う、青い空。
柔らかな草のにおいを含んだ風はやさしく吹き抜け、
昇りかけの太陽が、あたたかく大地に降り注ぐ。
遮る物なんて、何も無い。
すごい、
すごいよデクの樹サマ・・・ッ
リンクが草原に見入る間に、ようやく追いついたロイドとルーク。
それに気付いたらしいリンクが、振り向き、満面の笑顔でふたりを急かす。
「2人とも、はやく!」
無邪気な声が、空気を震わせる。
隣でくすりと漏れる声。
ロイドが振り向くと、ルークが眩しそうに目を細めていた。
ロイドの視線に気付くと、微笑んでくる
きっと彼も、頬が緩んでいたに違いない。
思わず笑みがこぼれる。
先を歩くリンクに追いついて。
笑いの声が上がる、小さな旅人たち。
そのあとをついて行く、白く小さな妖精ナビィ。
空は快晴。
森から出たばかりでまだまばらに生える木々の、一際大きな一本の木の枝に、一羽の大きなフクロウが何かを待ち構えるようにとまっていた。
そのフクロウは、眼下を過ぎる旅立つ子らを見つけると、旅立ちを祝福するようにやさしく見下ろす。そして、一行が遠くへ行くのを見届けると、やがて大空へと飛び立っていった。
育む者の 命は尽きて
新たな者が 見守ろう
蒼き瞳の巨躯を優雅に
その羽<は>を広げ
悠然と
空舞う者の 視線の先は
駆け行く猛き
三色の剣
意志を宿した 『氷炎の剣』
記憶を刻む 『音叉の剣』
そして
扉を護りし 『退魔の剣』
響く音色は オカリナの言葉
地を這う闇を 払いて進む
黄金<コガネ>の息吹にその音を乗せて
草原を渡る 風となれ