どれくらい歩いただろう。
どこまでも続く闇。
灯りは妖精ナビィのそれと、さっき拾った棒に点けたタイマツの炎。
ゴーマは、まだ見つからない。
「ミド」
松明から数歩離れた一行の最後尾でぶすっとした顔でついて来るミド。
「ミドってば」
リンクがミドを呼ぶ。
「まだ怒ってるのか?」
ミドもわかったって言ったじゃないか
「こんなところでケンカはやめようよ」
いつもはケンカの渦中にいる分、なだめる方に回るのはなんだか変な気分だ。
「ルークもだぞ」
松明を片手に、ロイドがルークの方
前を見る。
「灯りはつけられたんだから、もういいじゃねーか」
ルークもミドも、火をつけてからずっとこんな調子だった。
火はコキリの森では使ってはいけないもの。
でも、この地面の下でなら、もし松明を落としても周りに燃えるものが無いから大丈夫だろうと、
ルークが意見を言ったあたりから、何だかギスギスし始めた。
確かにここはデクの樹サマの中だけど、森の中ではない。回りに木は一切無いし、
デクの樹サマの根っこらしきものも見当たらない。
そういった場所で拾った棒に、火をつけようという話になり。
ところが
火は天敵とまで認識していたらしいミドにとっては大問題だったらしく。
先程ルークとミドは大論争を繰り広げたのだった。
「おわっ!?」
どさ、
間の抜けた声に顔を上げると、ルークが地面に突っ伏していた。
敵がどこにいるかもわからない状況で、ちょっと間が抜けてるというか・・・
コレットと良い勝負だよな。
「け、火があっても意味ネーじゃん」
「
ミード。もうやめろよ
大丈夫か、ルーク?」
リンクがルークを助け起こしに行った。
ふと浮かんだ幼なじみの顔を振り払い、ロイドもルークのそばへ寄る。
一緒にいた幼なじみのことは心配だけれど。
今は自分がしっかりしなくては。
気を引き締めたところで、偶然照らされたルークの足下を見て、思わず手を止めた。
半分に割れた小降りの岩がある。
大きさは人の頭より少し大きいくらい。
拾い上げてみると意外と軽く、中は空洞になっているようだ。松明の炎に照らされて、
べっとりと湿っているらしいことが伺える。
「ロイド、何、それ?」
リンクがおそるおそる声をかける。
ロイドは、松明を右へ、左へと掲げ、周りを確認した。
同じような大きさの岩が、辺りにゴロゴロところがっている。嫌な予感がする。
いつの間にか灯りが届かないほどの大空洞に踏み込んでいたらしい。奥までこの岩があるとしたら・・・
「
出直そう」
「は?」
「今の状況で、これは
多すぎだろ」
「ここまで来て?」
「つーか、いったい何拾ったんだッつーの」
「いいから、全員
」ロイドの言葉は、最後まで紡がれることはなかった。
「
リンク!うえ!」
ナビィの声にとっさに顔を上げて、リンクは後悔した。
ずっと高いところで、赤い月がじっとこちらを見おろしていた。
それはリンクと目が合うと、その大きな眼球を瞼の中でぐるりと縦に一回転させ、
カサカサと背筋がもぞもぞと凍るような音を立てて忙しなく天井を行ったり来たりしたかと思うと、
どすん、と地響きを立てて
その衝撃で天井からぱらぱらと砂が降ってくる
彼らの目の前に降りて来た。
キェェェーーーーー!!
天に向かって響く甲高い咆哮。その声に洞窟が再び振動する。
「とうとうお出ましかよ」
ち、と舌をならしてひょいっと身を起こすと、ルークは左手で軽やかに抜剣した。
その隣で、ロイドも、左右の手ですらっと左右の剣を抜き、構えた。
見つかる前にこの場を離れたかったのに。
ここまで来てしまったらあとには引けない。
「気を抜くな」
リンクも背負った剣を抜く。
思ったより、大きい。
しぼんだ袋のふちみたいになった尻尾で立ち上がり、両手の巨大なはさみをガチガチならして。
(このはさみ片方だけでもリンクの身体ほどの大きさがある)肩らしき部分は
巨大な鎧のような鈍い茜色の甲羅におおわれ、淡く青白いごつごつした形の結晶が一対生え下がっている。
その上には、歩行に使ってもいるらしい最初のはさみよりは、幾分小さなはさみがさらに一対。
同じく甲羅におおわれた目が、バチン、くるりと回って、4人を見下ろした。
「これが、ゴーマ・・・!」
デクの樹サマが死にかけている、元凶 !
「先手必勝!」
言いざまロイドが地面を抉るように放った剣の衝撃波が、地をまっすぐに駆け抜け、ゴーマに直撃する。
がちん、と金属音が鳴り、動きが止まる。
「
どいてろ!」
いつの間にか宙にいたルークが、その位置から急降下。後頭部に鋭い蹴りが炸裂した。
がちがちがち
「
!?」
ルークの攻撃が終わるや、閉じていた鎧の瞼がカッと開き、目玉がぐるりとルークを睨みつける。
キシャ―ーー!!
奇声を上げるとともに、身体を揺さぶり、ルークが吹き飛ばされる。
走り込んでいたロイドも、一端退いてルークのそばまで戻った。
「無事か!」
「なんとか
それよりあいつ」
傷ひとつないぜ
しかもめちゃめちゃ堅ぇ!
さっき戦った幼生体よりも、格段と堅い甲殻。
剣が全く効かない。
魔術の使える仲間がいないことが悔やまれる。
ギャーーーッ!!
さっきとは違う奇声。その音を合図にか、周囲から、パリパリ、という何かが割れていく音が聞こえてくる。
松明の残り火が、周りにあった岩を照らし、その岩から何かが孵る姿を照らし出す。
そして、あの赤い『星』が灯る
そう、
周りにあったのは卵だったのだ
次々に孵化する幼生体
完全に囲まれた。
ここには、さっきのような泉も無い。
さっきみたいに水の中に落とすことは出来ない。
「あわわわわ・・・」
ミドが盾を構え声をあげた。完全に腰が引けている。
襲い来る幼生体。ミドを後ろにかばって剣で薙ぎ払う。相変わらず効いてないようだ。
「ミド、隠れろ!」
いくら盾<身を守れるモノ>があるからって攻撃の術もないミドが、怪物たちの真中にいるのは良くないと思った。
せめて、岩陰に隠れるとかしてもらわなければ
「
リンク!」
ナビィの悲鳴。
幼生体が一匹、リンクに飛びかかって来た。