2 妖精と即興楽曲<トッカータ> - 6,闇の向こうへ

最後の一匹をなんとか水に突き落とし、剣をしまう一行。なんとか片付いたな、と一息つくロイド。

と、ルークの様子がおかしいことに気付いた。どことなくぼーっとしているような・・・


「ルーク?」

なんかぼーっとしてるけど、どうかしたのか?

「おれ・・・」

ルークは、自分が最後に突き落とした幼生体が作った波紋を、見下ろしていた。

「ここから出たら泳ぎの練習するよ」

「・・・なんで涙目なんだ?」

リンクが首をかしげた。


「泣いてねーよ!!」


さっき溺れた自分を思い出してたり泳げネーの気にしてたりなんかしてねーからな! 絶ッッッ対してねーからなッッ!!


叫ぶルーク。カナヅチを気にしているのがバレバレだ。

「大丈夫だって!ルークが水に落ちちまっても、また俺が助けに行ってやるからさ!」

ロイド君フォローになってません。

ありがと〜と言いながら、とほほとひときわ大きなため息をつくルーク。

「でも、あいつらこれで倒したことにはならねーんじゃねーか?」

水面を見ていたのはルークが泳げなくて落ち込んでいただけじゃない(認めたくねーけど!)。 偶然とはいえ、泳げな水が弱点のモンスターだったけど、もし今はちょっと沈んでいるだけで、 あとで上がって来られたら     これでは、根本的な解決にはならないんじゃないか。

「だな。でも、今はこれが最善だと思う」

「今の俺たちの力じゃ、どうがんばってもあいつらを倒せない。一時しのぎにしかならないのはわかってるけど、 魔術を使える仲間がいない今、倒すのは無理だ。モンスターを倒せてラッキー、くらいに思っておこうぜ」

「ロイド・・・おまえって、すげーんだな・・・」

前向きッつーか。


「でもさ、さっきは危なかったよなぁ。危うく見逃すところだったぜ。ミド、ナイス!」

「それ言ったらリンクだって、あいつ撃ち落としてたじゃねーか。どうやってやったんだ?」

弓矢じゃねーよな?

「これのコト?何か役に立つかな、と思って持って来てみたんだけど・・・」

そう言ってリンクが差し出したそれは、Y字型の小さな木の棒だった。 木の枝を丁寧に削って作られたもののようだ。ヘー、とロイドが声を漏らす。

「リンクが作ったのか?」

「うん」

「何だそれ?」

「何って・・・パチンコだよ」

枝の端に取り付けたゴムとかに、飛ばしたい物を引っ掛けて弓矢みたいに引いて討つんだ。 本当は遊びで作ったおもちゃなんだけど、けっこう遠くまで飛ばせるし、 当たりどころが良ければ高い所にあって手が届かないような所の木の実なんかも落とせる。

「へぇ・・・」

リンクの説明を聞きながらパチンコを見るルークのその様は、まさに年相応の少年だった。 初めて見たおもしろそうなものを目の前にしたような、そんな表情をしている。

「ルークは見たことねぇのか?」

その言葉にルークが目をそらし、うつむいた。

「あんまし、こどものおもちゃとかで遊んだことねぇから・・・」

「ふーん?」

珍しいこともあるんだな?

「で、さっき飛ばしたのは・・・」

首をかしげつつも、ロイドがリンクに向き直った。

「コレだよ」

そう言って腰のポーチから取り出したのは、何かのタネのようだった。タネ自体がすでに死んでしまっているのか、 種皮がとても堅い     確かにコレなら、パチンコのタマとして申し分ないだろう。 本気で射ったらホントに痛そうだ。


「でも、もう使えないよ・・・射つたびに、ほら」

そう言ってリンクが持ち上げたパチンコは、確かに、ゴムの部分が取れてしまっていた。これではタマがあっても意味はない。

「うーん・・・ちょっとかしてみろよ」

頷いてロイドにパチンコを渡す。

ロイドはしばらくふむふむとパチンコを観察すると、「これくらいなら・・・」 と言って懐から布にくるまれた包みを取り出し、広げた。中から出て来たのは工具だった。 よく見かける身近な物から、何だか珍しい形の、訳のわからない形のものまである。

「ちょっといじるぞ?」

「うん?」

そうリンクにことわると、一度ゴムを外して木だけの状態にし、木の部分をいじる。 光源があるとはいえ、暗い中での作業なのに、目にも止まらぬ速さで手を動かし・・・

「よし、できた!」

そう言ってロイドはパチンコをリンクに返した。

ゴムを引っ張ってみると、さっきまでの頼りない結び目とは違って、思いっきり引っ張っても大丈夫そうだ。

「すっげ、ロイドって器用なんだなー!」

ルークが目を丸くした。

「応急処置だから、また壊れるかもしれねーけど」

カチャカチャと道具を片付けながらロイドが言った。

「ここを出たら、ちゃんと直してやるよ」

「ありがとう、ロイド!」

お礼を言うリンク。

「ねぇ!あっちにも、大きな穴があるみたい」

辺りを飛んでいたらしいナビィが、リンクたちのもとに戻ってきて頭上をぐるぐる回りながら言った。


「さっきの奴、あっちの方に行ったのかな」

「多分な」

リンクの言葉に答えつつロイドが服を払い、立ち上がる。

「逃げてった奴らと同じ方向だし、それにまだ、あのでっけー奴も見当たらない      追いかけるなら、あっちだな」

「追いかけるって、このままじゃちょっとキツくねぇ?」

一旦戻ってコキリの村で補給した方が無難。

さっきのモンスターのこともある。下手に進むのは危険だ。

「でも戻れないだろ?進むしか無いじゃん」

「あぁ・・・」


そう言ってルークは頭上を振り仰いだ。

「そういや、結局落っこちて来ちまったんだっけ」

おれたち、よく助かったよなぁ・・・

「奥の方に行けば別の出口も見つかるかもしれねーし」

うんうん唸って上の方を見上げていると、そうだ、というリンクの声。

「ミド、確かミドのうちに、縄のハシゴあったよな?」

「お、おう」

「じゃあ、妖精に頼んで森のみんなに持って来てもらうのは?」

心得たとばかりに、ひとつ頷いて空へ飛んでいったミドの妖精。それを見送って。

「これで戻るのは大丈夫、かな?」

「ナイス、リンク!」


「よし、あとは     」

ザッと音を立て、奥へと続く洞窟を見据える。

吸い込まれそうな闇が、広がっている。



「いくか」

「やっぱ、そうなるよな」

ロイドと、ルーク。



無謀なのはわかってる、けれど。

待ってる時間が惜しい。


戻ることも口にしたけれど、

最初から戻る気なんて、さらさらない。

戻ることが出来ないなら、先に進もう。


この瞬間にもこの森の守護精霊は弱っているだろうから。


何もしないよりも、今出来ることをする。

ふたりが歩き出す。


続いてリンクも、というところで、ミドが視界に入った。

「・・・ミド?」

ミドの妖精が飛んで行った先     上の方を見つめたまま、動かないミド。

どうしたんだ?

ミドのところまで戻る。


「ミド、ロイドとルークが先に行っちゃうよ」

「リンク・・・」

ミドが、弱々しく呟いた。

「デクの樹サマが死んじまったらどうしよう」

リンクは目をまるくした。こんなミドは初めてだ。


いつもと違うミドの雰囲気にのまれ、リンクも不安になる。

でも、ここでリンクはそれをぐっとこらえ、ミドに背を向けて。


「そんなこと、させるもんか・・・!」


決意の一言。

ロイドとルークを追う。


その後ろ姿を見、うつむきためらいながらも、顔を上げてミドが続く。

闇の向こうへ。



  1. << back 
  2. || もくじ ||
  3.  next >>