バッシャーーンッッ!!
水音がした次の瞬間、リンクは水の中にいた。
暗い水の中にあって、妖精の灯りがキラキラ光っている
あっちが水面らしい。水は多少濁りはあるものの、
視界を遮るほどではなく。軽く水底を蹴って水面へ浮上
息がキツくなってきた
もう少し
着いた・・・!
「ぷはっっ!!」
ようやく水面に出ることができて、思う存分呼吸する。
「無事か・・・ッ!?」
すぐそばでロイドの声。
「なんとか・・・」
ぜいぜいといいながら、なんとか答えられた。辺りを見回す。岸は・・・すぐそこにあるようだ。
ミドも岸に着くところで・・・大丈夫みたいだ。
ミドがいる場所に自然に集まる形で泳いで行く。岸にあがって、ほっと一息つけるというところで、
「あれ?ルークは・・・」
ルークがいないことに気付いた。
「ルーク!」
返事が無い。声が、闇にのこる。
血の気が引くとはこの事か。
「まさか、まだ上で戦ってるんじゃ・・・」
ばっと上の方を仰ぎ見る
剣劇の音は、聞こえないみたいだ。
ふと、足下の水面から音が聞こえて目をやる。
朱色がぼんやりと見え隠れしている所で水泡がぶくぶくと・・・
「
ルーク!!?」
ばっとロイドが飛び込みルークを助けに潜る。すぐにロイドと、朱色の本体、ルークが顔を見せた。
「大丈夫か?」
ロイドが岸にあがらせて背中をさする。
「
うぃ〜〜っ サンキュー、助かった・・・」
両手を地面につけて、肩で息をするルーク。
「おまえ、泳げないんだな・・・」
けっこう強いのに、泳げないなんて不思議。
「ここから出たら、コキリの森で『れんしゅう』する?」
「
うるせーッ!」
うん。ツっこむ元気があるなら大丈夫だ。
誰からともなく雰囲気が和む。
そうして、はたと、リンクはロイドの剣をまだ持っていたことに気付いた。
「ロイド、剣返すよ。ありがとう」
「いや、いいって」
下に降りれたし、結果オーライ。
「それより、拾ってくれて、ありがとな」
ロイドはリンクから剣を受け取り、いつものクセでシュッと一振りしてから鞘に納める。
「それにしても、なんで炎が出たんだ?」
それもロイドの剣から。
ルークが、上着の裾をしぼりながら疑問を口にした。
今ロイドが一振りした剣の軌跡は、確かに紅かったけど、
さっきリンクが振ったみたいに、ロイドが剣を振って炎が出ることはない。
言われてロイドが腰の剣をじっと見つめ「そう言えば・・・」と、思い出したように言った。
「フランヴェルジュはたくさんの炎を集めて造られた『
炎の魔剣』だっけ」
「
そんなアブねぇもんを森の中に!?」
ミドが、鬼気迫る顔でロイドに詰め寄った。
「ちょっ、まっ・・・ 俺は一応人間だから、魔術のたぐいは使えないんだよ!
・・・ほら、迷いの森の奥でモンスターが襲って来た時だって、
この剣から火なんて出てなかっただろ!」
俺の世界では、魔法を使うには特殊な血筋(エルフの血)が要るんだ。
エルフは、リンクやミドのように耳の長い(もしくは高い)種族で、
森に住み、魔術に長けたとても長生きする種族だと昨日の夜ロイドが話してくれていた。
「もしかしたら、リンクは魔法剣士になれるんじゃねーか?」
なんとかミドを落ちつかせ、ロイドが言った。
「魔術はともかく、ここを出たら、ちょっと稽古してみようぜ?」
俺が教えられるのは剣だけだけどさ
「あ、ずりー!おれも、おれもー・・・!」
そう言ってルークが、勢いよくリンクの方へ
ではなく、ミドに飛びかかった。
押し倒されるミド。
「な、ルーッ
!?」
突然のことに、目を丸くする間もなく、ロイドが剣の柄に手をかける
一瞬で彼らの雰囲気が鋭くなった。
斬られ・・・ッ!!
「
ふせろ」
低い声。
走り出すロイド。
とっさに前へ飛び込むように倒れ込む。
その上を煌めく蒼い横一閃。
金属音とともに何かが吹き飛んだ。
「動くんじゃねーぞ!?」
ルークも剣を抜き、ミドに動かぬように言うが速いか、
その場で地面に円を描くと、その中心に思いっきり剣を突き立てる
衝撃波が、その円を中心にして起きる。
ふたりの周りにいたらしい何かが、吹き飛んだ。
「追いかけてきやがった」
地に刺した剣を引き抜き、軽く舌打ちするルーク。
その光景に、ミドは思わず声をあげた。
「ふたりとも、もう少しさがってろよ」
二振りの剣を両手に構え、ロイドが暗闇を見据える。
その視線を追って見たモノは、暗闇の中、小さく光る、たくさんのオレンジ色の『星』
!
「
こいつらは・・・!」
上で襲って来たモンスター!
さっきはあまりに突然だったために、姿を確認することすらできなかったが。
青白い硬質の細長い筆みたいな形のトサカ。か細い二本の脚。
ヒカリを反射するヌメヌメした鈍い茜色の甲羅に、大きなひとつ目のモンスター。
体長は、リンクたちより少し小さいくらい
さっき上から見たゴーマに、どこか似ている。
「
ゴーマの幼生だヨ。木の幹を食べて成長するの」
ナビィが言う。
「ということは、
地上の方の空洞はこいつらの仕業か!」
大きなひとつ目を血のように真っ赤に染め、一斉に飛びかかる幼生ゴーマの群。
横一閃で薙ぎ払うロイド。
ガキンッ、という金属音を立てて弾かれた幼生体は、
そのか細い足のどこにそんな力があるのか、吹き飛ばされつつも転ばずに踏ん張りきった。
ふるふると身体を揺すり、閉じていた目を開けて、睨みつける。
やっぱ堅ぇ!!
エクスフィアを着けてるとはいえ、細い腕にジンッとくる。
もともと痩せている方だとは思うけど、だからって傷ひとつ付けられないのはちょっと傷つく。
というか、『こども』だから、か?
元の世界では、いくら堅くたってこれくらい、蹴散らしていたはずだ。
たとえ相手が堅い鎧に包まれたものだとしても、傷くらい付けられた。
その蓄積で、割ることだって可能だった。それが今、効かない。
そうだ。
剣が効かない原因は、元の身体との体格差。
「いつも通り戦ってたら、だめってことか・・・!」
そうとわかったら余計に力が入る。半ば八つ当たりのように剣を振り下ろすが、敵はビクともしない。
「あーもうチクショー!!来んじゃねぇッつー、
の!!!」
剣が効かないことにイライラしたのか、ルークが横に振り払い様右手を押し当て
赤く光ったように見えた
一撃。
その衝撃がもろに当たった一匹は、踏ん張る間もなく転ぶ。
ダメージを受けた訳ではなさそうだが、油断でもしたんだろう。
止まることも出来ず、そのまま飛んでいった先は
崖。
さっきの彼らよろしく、真っ逆さまに水の中に落ちて行った幼生体は、ぶくぶくと沈んでいった。
「沈んじまった・・・」
「沈ん だな」
「沈んだ・・・ね」
上からルーク、ロイド、リンク。
あまりの出来事に、固まってしまった一同。そして、じわじわと思考が働きだす。
ということは・・・
「
水だ!水に落っことせ!!」
「
わかった!」
ロイドの声にリンクが応える。
「ちょ、え〜〜・・・」
活路のきっかけとなったはずのルークは、ひとり乗り遅れたという。
「上には行かせない!」
一匹ずつ剣でなぎ倒しながらの、リンクの声。
ロイドがチラッと見てみる。リンクは意外と力があるらしく、ロイドよりも何手かかかってはいるが、戦えている。
やっぱり、剣筋は悪くないみたいだ。
ルークの方は、もともと体術もかねた剣術スタイルだったみたいだけど、腕力が弱体化してちょっと焦り気味?
それはロイドにも言えることで。
この件が一段落したら、自分の状況になれておいた方がいいよな。
などと考えをめぐらせながら、戦っている(というか、敵を片っ端から水に落っことしている)のだが、
この中で一番押しているのはロイドだったりする。エクスフィア恐るべし。
「おい!
上・・・!」
ミドの声にぱっと上を振り仰ぐ。
その先には上へ続く穴へ向かってカサカサと音を立てながらよじ上っていく一体が見えた。
すぐさま駆け出すロイド。ジャンプざまに斬り上げる。が、届かない。
「くそ!待ちやがれ!!」
ルークが腕を地面を掻き揚げるように振り上げた。
地面を突き進む衝撃波はしかし、幼生体まであと一歩というところで掻き消える。
「ちくしょう、届かねぇ!」
しかもいつもよりなんか短ぇし!
地団駄踏んで悔しがるルーク。
そうしている間にも、幼生体はどんどん上へと登っていく。
「譜術が使えればあんな奴!!」
例えばジェイドの譜術とか ナタリアの矢でもいい
何か、遠くを射てる
飛び道具があれば
飛び道具
リンクはさっと後ろに手をのばし、何か取り出した。引っ張って狙いを定め、それを放つ。
パチン! という音を立てて、放たれたものは幼生体の足下へ。
バランスを崩した幼生体は、がらがらと周りの土を巻き込んで
ボチャーーン!
本日二度目の、小気味良い水音が響いた。