デクの樹サマの中は、すでに地上三階ほどの大空洞になっているようだった。
『ようだった』なのは、夜の暗闇に相まって、デクの樹サマの中が暗いからだ。
妖精ふたりのおかげで周りが見えている状態。高さがどれくらいかわかったのも、
彼女たちのおかげだった(ナビィが天井を確かめて来てくれた)。
ふたりでワンフロアくらいは見渡せる明るさになるようにがんばってくれているみたいで、すごくありがたい。
それでも気をつけないと転ぶワケで・・・
「わっ」
急に足下の感触が変わって思わず転んだルーク。
「何やってんだよまったく」
ミドがぶつくさ言いながら手を差し伸べる。
「おまえもうちょっと足下見て歩けよな」
リンクの家から落っこちてたのといい。
「そのうち本物の落とし穴とかに引っかかっちまうぞ?」
ロイドもルークに手を貸して、言った。
「う”…そうしマス」
すごく苦い顔をするルーク
何だろうその心当たりありそうな顔。
すごく気になる
ミドとロイドの手を借りて身体を起こし、ほっと一息。
「ううーちょうどいいところに網が張ってあって良かっ…」
ねちょ
「
わ”ぁぁぁーーー!!!?」
不意の感触に驚いてルークが飛び上がった。
「なななななななん」
まだ手に感触が残ってる。
なんつーか、ねばねばしてるっつーか、なんか引っかるっつーか?
要するにいい気分じゃねーのは確か。
「クモの巣?」
リンクがそのそばにしゃがみ、さわって確かめる。このまとわりつくような糸みたいなモノは間違いない。
ただし、いつも目にするものよりは・・・大分
極太ではあるようだが。
「どうしてデクの樹サマの中にこんなものが・・・」
ふいに背後から、服をひっぱられた感じがして、リンクは振り返った。そこには下を見たまま青ざめた様子のミド。
「?どうした、ミド」
「
あれ・・・」
声が震えている。
いぶかしんでミドが指し示す方
クモの巣の向こう。地下・・・か?
を覗き込み、視えたモノに息をのんだ。
妖精がわずかに照らす地中の暗闇の中に、赤い月がある。
ゆらりゆらりと忙しなく動く歪な月だ。
その月は、ふいにこちらを見上げ、バチバチと瞬きすると、にたり、と不気味に笑んだ。
「
ッ!!?」
ぞぞぞと背筋を寒気が走った。思わず後ずさる。
「なんだよ、あれ・・・!」
やっと出たリンクの声は、ふるえていた。
怪物は、ガサガサと音を立てながら、止まったり、動きだしたりを繰り返していた。
「あれがデクの樹サマをこんなにしちゃったヨ」
ナビィが、震える声で言った。
「あれは、
ゴーマ・・・。木の根元に穴を掘って巣穴にするの。
本当はとても小さい虫みたいな生き物で、こんなに大きな穴なんてつくれないハズなのに・・・」
やがて怪物、ゴーマは、デクの樹サマの地下の奥深くへと姿を消していった。
ごりごりという鈍い音を立てながら・・・
「・・・追いかけよう」
そう言ったのは、リンクだった。
「
はぁ!?何言ってんだオマエ!!」
「でも!このままじゃデクの樹サマが本当に死んじゃうよ!」
あいつ・・・ゴーマが原因なのはわかった。ゴーマを倒さなきゃデクの樹サマが苦しみ続けるって言うことも
そう、ゴーマさえ、倒せれば、デクの樹サマが助かるんだ。
「なら、このクモの巣をどうにかして下に降りてみねーか? 下に行けそうなとこ、ここしかねーみてーだし」
よっ、とルークが軽く勢いをつけてクモの巣に乗った。
ゴーマのいる場所へ降りるには、穴を塞ぐように張られた、この巨大なクモの巣が邪魔だ。
飛び乗った反動でぶよぶよと揺れるクモの巣。
しかし
「・・・クモの巣って、あんがい丈夫なんだな・・・」
軽く跳躍して上下に揺するがびくともしない。4人乗っても少々沈む程度にとどまっているあたり、かなりの頑丈さ。
剣で斬ろうとしても、クモの巣独特の粘着性故、逆に剣の方がからめとられる始末。
他の方法を考えるしかない。
「高い所からジャンプ!・・・とか?」
そう言ったのはルーク。
ゴーマの突然変異のせいでできた地上三階以上の大空洞。
その上の方に微かに見える足場らしい所まで、緩い傾斜やら複雑な凹凸などをよじ上ってなんとか登れないこともない。
が、むろん、高い。
「いや、死ぬだろ」
ロイドが却下。
運良くクモの巣が破れたとして、この穴かなり深そう。何も無かったらあいつ倒す前にこっちが死んじまうって。
クモの巣をまじまじ見つめながら別の提案をする。
「火ぃつけるのはどうだ?」
クモの巣って燃えるよな?俺、昔クモの巣にイタズラしたことが・・・
「「
デクの樹サマの中で火をおこすなんてゼッタイ反対ッ!!」」
コキリ組がハモった。
普段仲が悪いんじゃないのかよおまえら。
じゃあこういうのは、とわいわい始めたこどもたち。その上をふよふよとただようナビィとミドの妖精。
何だかほほえましいなぁとそんなことを考えてる場合じゃないのにふいに上を見上げるふたり。
すると真っ暗な天井に一斉に浮かび上がる赤い『星』。
そのそれぞれが、ぱちぱち瞬く。
思わず固まる妖精ふたり。
『星』が落ちてくる。
「「
危ない!」」
はっと我に帰った妖精の警戒の声とほぼ同時に、リンクは背後から何かに吹き飛ばされた。
ぼたぼたぼた
ついで次々に落ちて来る『星』。
「
リン… 」
ガッッ!!
ロイドが駆け寄ろうと走り出す、が、前に出たところにちょうど落ちて来た『星』に思いっきり蹴飛ばされてしまった。
弾みで紅い剣が手を離れてしまう。
「
おい!?」
ミドが驚く声。
「く、
なんだこいつら!」
残った右手の蒼い剣で応戦するロイド。剣を拾いに行っているヒマはない。
「
リンク!ロイド、大丈夫か!?」
ルークが叫ぶ。
「なんとか、
なッ!」
応えつつ、蒼い剣で一撃。ルークがちらと見ると、彼はなんとか防ぐことは出来るものの、
剣一本は慣れないらしく苦戦しているようだ。
咳き込みつつ、立ちあがるリンク。視界の隅に、ロイドの紅い剣が見える。
『星』が、リンクの周りにも落ちてくる。囲まれる前に急いで走り出し、ロイドの剣を拾った。紅い刀身がきらめく。
「これって、ヤバくねぇ?」
ルークの声。
数がハンパ無い。
それにこいつら、剣ほとんど効いてねぇんじゃねーか!?
次から次へとぼたぼた落ちて来る『星』
クモの巣の上に追いつめられる。
「リンク、戻って来い!
一端外に出よう!」
対策を立てなおしてしっかり準備してから入るべきだ。
「ロイド、これ・・・」
「
リンク!!」
リンクの背後から、一斉に襲いかかって来る数匹の『星』。
利き手にはロイドの紅い剣
コキリの剣を抜く余裕は無い。
とっさに放った振り向き様の横一閃
突然、剣の軌跡に炎があがった。
「
!?」
あまりの事に止まる事が出来ず、リンクは剣の惰性にまかせて思いっきり振り抜いてしまった。
目標を捕らえられなかった剣。しかし飛び散った炎は、蜘蛛の巣に燃え移る。
ジュウウウ・・・
それを火種に、音を立てて勢いよく燃えだす蜘蛛の巣。
「わ、わわ・・」
「
リンク!」
助けようと手を伸ばすも、彼らがいる場所は皆、燃えだしたクモの巣の上。
周囲には剣の効かない謎のモンスター
逃げ場が、無い。
あっという間にクモの巣が全て燃え尽きて一行は足場を失い、そのまま闇へと落ちていく
小気味良い水音が闇に響いた。