2 妖精と即興楽曲<トッカータ> - 10,旅立ち

「ぜーんぶ、オマエのせいだからな!」


数刻後


支度を終え、いざ出発という時に、ミドが食って掛かった。

「オマエのせいでデクの樹サマ死んじゃったじゃねーか!」

コキリの森の、旅立ちの朝に響く、声。それに負けじと、リンクも声をあげる。


「な、に言ってるんだよ、オレたち、がんばっただろ!デクの樹サマも言ってたじゃないか! デクの樹サマが死んじゃったのは・・・!」

「うるっさい!妖精なしのクセに!!」

リンクの言葉を、いつもの言葉で遮る。リンクが、一番傷ついてきたコトバ。

「おいミド!いい加減に・・・」

ロイドが止めに入ろうとしたところで、ミドは、バン、という音とともに何かをリンクに押し付けた。


「それ持って、さっさと出てけよ!」


そう言ってミドが押し付けたもの。それは、彼が祭のためにデクの樹サマの一部で作ったデクの盾だった。 この森を護ってくれるものとして、この先一年、ミドの家にこれから保管されなければいけないハズのモノ      この森にとって、とても大切なモノ。

「ミド・・・これは」

コトバは、あまりにもひどいモノだったけれど

「さっさと行っちまえ!帰ってくんな・・・!」

ミドの行動の意味するコトを、理屈ではなく別の何かで感じて。


「リンク!」


リンクは、ルークの静止のコトバも聞かずに、走り出していた。

森に淡く立ちこめる霧ですぐに見えなくなるリンク。


「ミド、おまえ、今言ったこと取り消せよ!」


すぐにミドへ食って掛かるロイド。


事情なんか知らない。

けれど、今の言葉はあまりにも、ひどすぎた。

今の言葉は、リンクにとって、この村から追放すると言っているのと同じことだ。


「ヨソ者は黙ってろよ!」

ミドが、これ以上ないほど声を張り上げた。


「そんなこと言ってると、後悔するぞ!」


追放されること。その怖さは、自身も味わったことがあるからこそ言える、二度と味わいたくない経験。

だからこそ言える、誰かに同じことを繰り返させたくないという想いから来る、忠告。


「でも、アニキ、リンク大好きだったじゃないか」

コキリのこどもたちも、ミドに声をかけた。

思わずそれる、ミドの目。迷っている証拠だ。


「悪いと思ってるなら、今からでも遅くない、追いかけろよ!」


とたんに、コキリのこどもたちが、うつむいた。

「おいらたちコキリ族は・・・森から出たら生きられないの、知らないんだ・・・」

「?」

(いま、何か声が聞こえた・・・?)

その態度に、首を傾げるロイド。


「行こう、ロイド。リンクを、追いかけよう」

ルークが、声をかける。

『でくノ樹ガ拾ッタ子ドモガ、ヨウヤク出テ行ッタヨ・・・』

森が、ざわめいた。

(今のは・・・?)
「オマエら!」


幽かに聴こえた声をいぶかしむ間もなく、後ろから声がかけられた。振り返れば、ミドが盛大に目をそらしつつ

「リンクに何かあったら、ゼッタイ許さねーからな!」

リンクには・・・ナイショだゾ・・・・・

後半の方は大分小さくごにょごにょして。


「さ、さっさと出て行っちまえよオマエらも!!」


顔を見合わせるふたり。ロイドが肩をすくめて、ルークが笑顔で手を振って


「じゃ、またな〜」

「もう来んなーーッ!」


顔を真っ赤にしてミドが叫ぶ。笑って走り出すふたり。

「心配ならそう言えばいいのに、素直じゃねー奴」

「だな」


(名目上)逃げるように走り去るロイドとルーク。やがて、リンクと同じように、淡い霧に紛れて見えなくなった。

一方リンクは、妖精がふわふわ漂う森を走っていた。


あとを追うように続く、妖精ナビィのヒカリの軌跡。

コキリの森は、周りをぐるりと小さな谷と沢に囲まれている、ということはデクの樹サマに聞いて知っていた。 森を出るには、その谷を渡るしかないということも。谷とはいえそれほど大きなものではないが、 それでも向こう岸へ渡るには、人の足だけでは不可能だということも、前に教えてもらったことがある。

それはソトから来る者にとっても同じことだったらしい。

それで昔、この森に入るために、ソトの人が橋をつくったと、デクの樹サマが言っていた。


そしてその橋は、今もこの森に架かったままになっているという。


皆は森から出たがらないから、今まで誰も使っていないが・・・

橋が見えて来た。


あの橋を渡れば、森のソトだ。

そのまま走り続け、橋を渡りはじめる。

谷は、木々に覆われていて、一見谷に見えないが、それなりの高さと広さを持っていることが、わかる。

橋を半分渡った頃だろうというとき     


「リンク・・・」


聞き慣れた少女の声が、彼を呼び止めた。


ミドは、意外と良い奴だという偏見。
管理人はミドがたいそうお気に入りです。(笑)
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