「ぜーんぶ、オマエのせいだからな!」
数刻後
支度を終え、いざ出発という時に、ミドが食って掛かった。
「オマエのせいでデクの樹サマ死んじゃったじゃねーか!」
コキリの森の、旅立ちの朝に響く、声。それに負けじと、リンクも声をあげる。
「な、に言ってるんだよ、オレたち、がんばっただろ!デクの樹サマも言ってたじゃないか!
デクの樹サマが死んじゃったのは・・・!」
「
うるっさい!妖精なしのクセに!!」
リンクの言葉を、いつもの言葉で遮る。リンクが、一番傷ついてきたコトバ。
「おいミド!いい加減に・・・」
ロイドが止めに入ろうとしたところで、ミドは、バン、という音とともに何かをリンクに押し付けた。
「
それ持って、さっさと出てけよ!」
そう言ってミドが押し付けたもの。それは、彼が祭のためにデクの樹サマの一部で作ったデクの盾だった。
この森を護ってくれるものとして、この先一年、ミドの家にこれから保管されなければいけないハズのモノ
この森にとって、とても大切なモノ。
「ミド・・・これは」
コトバは、あまりにもひどいモノだったけれど
「さっさと行っちまえ!帰ってくんな・・・!」
ミドの行動の意味するコトを、理屈ではなく別の何かで感じて。
「
リンク!」
リンクは、ルークの静止のコトバも聞かずに、走り出していた。
森に淡く立ちこめる霧ですぐに見えなくなるリンク。
「ミド、おまえ、今言ったこと取り消せよ!」
すぐにミドへ食って掛かるロイド。
事情なんか知らない。
けれど、今の言葉はあまりにも、ひどすぎた。
今の言葉は、リンクにとって、この村から追放すると言っているのと同じことだ。
「
ヨソ者は黙ってろよ!」
ミドが、これ以上ないほど声を張り上げた。
「そんなこと言ってると、後悔するぞ!」
追放されること。その怖さは、自身も味わったことがあるからこそ言える、二度と味わいたくない経験。
だからこそ言える、誰かに同じことを繰り返させたくないという想いから来る、忠告。
「でも、アニキ、リンク大好きだったじゃないか」
コキリのこどもたちも、ミドに声をかけた。
思わずそれる、ミドの目。迷っている証拠だ。
「悪いと思ってるなら、今からでも遅くない、
追いかけろよ!」
とたんに、コキリのこどもたちが、うつむいた。
「おいらたちコキリ族は・・・森から出たら生きられないの、知らないんだ・・・」
「?」
(いま、何か声が聞こえた・・・?)
その態度に、首を傾げるロイド。
「行こう、ロイド。リンクを、追いかけよう」
ルークが、声をかける。
『でくノ樹ガ拾ッタ子ドモガ、ヨウヤク出テ行ッタヨ・・・』
森が、ざわめいた。
(今のは・・・?)
「
オマエら!」
幽かに聴こえた声をいぶかしむ間もなく、後ろから声がかけられた。振り返れば、ミドが盛大に目をそらしつつ
「
リンクに何かあったら、ゼッタイ許さねーからな!」
リンクには・・・ナイショだゾ・・・・・
後半の方は大分小さくごにょごにょして。
「さ、さっさと出て行っちまえよオマエらも!!」
顔を見合わせるふたり。ロイドが肩をすくめて、ルークが笑顔で手を振って
「
じゃ、またな〜」
「
もう来んなーーッ!」
顔を真っ赤にしてミドが叫ぶ。笑って走り出すふたり。
「心配ならそう言えばいいのに、素直じゃねー奴」
「だな」
(名目上)逃げるように走り去るロイドとルーク。やがて、リンクと同じように、淡い霧に紛れて見えなくなった。
一方リンクは、妖精がふわふわ漂う森を走っていた。
あとを追うように続く、妖精ナビィのヒカリの軌跡。
コキリの森は、周りをぐるりと小さな谷と沢に囲まれている、ということはデクの樹サマに聞いて知っていた。
森を出るには、その谷を渡るしかないということも。谷とはいえそれほど大きなものではないが、
それでも向こう岸へ渡るには、人の足だけでは不可能だということも、前に教えてもらったことがある。
それはソトから来る者にとっても同じことだったらしい。
それで昔、この森に入るために、ソトの人が橋をつくったと、デクの樹サマが言っていた。
そしてその橋は、今もこの森に架かったままになっているという。
皆は森から出たがらないから、今まで誰も使っていないが・・・
橋が見えて来た。
あの橋を渡れば、森のソトだ。
そのまま走り続け、橋を渡りはじめる。
谷は、木々に覆われていて、一見谷に見えないが、それなりの高さと広さを持っていることが、わかる。
橋を半分渡った頃だろうというとき
「
リンク・・・」
聞き慣れた少女の声が、彼を呼び止めた。