「
ふたりとも、おそーい!」
そう言って笑うのはサリア。
目の前には息を切らせたリンクとミドのふたりがいる。
「もう何度か来てるんだし、サリア、もう道覚えちゃった!」
「ま、迷わねーのはサリアくらいだゾ」
「め、目一杯近道したつもりだったのに…」
ようやく落ちついて来た2人の頭上をいく風が何とも心地いい。さわさわという木の葉の音も、だ。
「2人とも先に走って行ったのに…」
「おれら別に走ったりとかはしてないよな?なんで?」
「そっか、まだ言ってなかったっけ。今通って来たのはね、『迷いの森』って言って、
ホントは入っちゃいけない場所なの。でも、全然迷わないし、コワい魔物とも会わないし・・・」
以外におてんばな少女だ。
ロイドとルークの2人はそれぞれのイメージする『おてんば少女』を思い浮かべた。
「まぁ、みんなに内緒で練習するって言うには、ここはいい場所だけどさ」
あーあ、デクの樹サマの言いつけ、早速ひとつ破っちゃった。
「みんなにナイショにできるほどうまかったら、のハナシだろ?」
ミドがイヤミを言い出す。
「そんなに主役がやれなくて悔しいのか」
負けじとリンクも言い返す。
「なんだと?」
「
ミードー?」
アナタは盾作らなきゃいけないでしょ?
そう凄んで来るサリア。ミドがたじろいだ。
「リンクだってケンブの練習があるんだから。ね、今日は暗いハナシはお休み」
「・・・わかったよ」
なんでデクの樹サマもサリアもリンクばっかり
ミドはブツブツと文句を言いながら近くの木の根元にどかっと腰掛けた。
「ミ…」
リンクが声を掛けようとするのをサリアが止めて、
「リンクは、練習」
ね?
そう言うとサリアはミドの所に駆け寄った。
ミドが盛大に照れているのが遠目でも分かる。
まったく素直じゃない。おまけに意地っ張りで。
そう言う所がなんかほっとけないっていうか、あれでリーダーだっていってるんだから面白い奴だよな。
くすくす笑いながら剣を左肩から斜めに背負う形で装備し、左手ですらりと抜き放つ。
要はミドといつもやってるチャンバラごっこの応用で、
棒切れを剣に持ち替えてやれば良い訳で。
まずは軽く素振り。
「なぁ」
声を掛けたのはロイド。
「おまえがやるのって剣舞なんだよな?」
「そうだけど」
「剣舞って確か、剣術の型を修めて披露するもんだろ」
「そうなのか?」
てっきり踊りのことかと思ってた。
「いや、踊りももちろんあるけどさ」
ルークが近づいてくる。
「剣舞ってのは、古い歌に合わせてその流派の型をどの程度習得しているかをみんなに見てもらって、
その腕を認めてもらう事だってガイ
ああおれのダチな
が言ってた。
そのガイって奴の故郷じゃ、ある季節の祭でそういうのをやるんだってさ。
何でも、そういった剣舞は、あくまで見せる事が目的で、もっぱら貴族のたしなみとして身につけてたらしいぞ」
だから遊びみたいなもん?
実際おれも昔はその程度にしか思ってなかったし。という台詞は飲み込んで。
「へぇー ルークは物知りだなー」
「
バッ…! そそそんなんじゃねーよ!」
見る見るうちに顔が赤くなるルーク。あっという間に彼の髪の毛と同じくらいまで真っ赤になった。
「ああ、すげーよ。俺、そういうの覚えんの苦手なんだよなー」
よくそれで先生に怒られるんだ。
ロイドがはははと笑った。
「そ、そんなことよりっ、どんな曲に合わせてやるんだ?」
顔を真っ赤にしたままリンクに話しかけるルーク(精神年齢最年少)。
「ああ、サリアのオカリナに合わせてやるんだ」
すっごい楽しい歌なんだ、とリンクが笑う。ふと、聞き慣れないものが出て来たらしい、ルークが首をかしげた。
「おかりな?」
「
オカリナ知らないの?」
「
どぉわ!!?」
面白いリアクションで振り返った先にはいつの間にかサリアが。
「3人とも楽しそうだからこっちに来ちゃった」
てへっ と、かわいらしく微笑むのが何とも可愛い。
「ちょうどいいや、サリア、いつもの吹いてよ」
オレも合わせて練習できるし。
「オッケー!サリア、がんばっちゃう!」
そういってポケットからオカリナを取り出す。
「行きまーす!」
まずはひとつ音を鳴らして、そして森に楽しい音が流れ出した。
踊るように。音色が響く。
軽快な調べに合わせて、リンクが剣を振り出した。
「楽しい曲だな」
「うん、それに」
森にあるマナが、音素が彼女の歌に応えているみたいだ。
頭ではなく、各々の心の中で。
可愛らしくて、楽しい、そんなメロディーを噛み締める。
吹き抜ける風までその音色を祝福するようだ。
その中で
がさっ
風に揺れる音にしては明らかに不相応な草の音が響いた。