「どうやら、次元が歪んでいたようだな」
そう言葉を発したのは巨大な白い手袋だ。これ以外に形容の仕様がない。ちなみに右手用だ。
「詳しい原因は調べてみないとわからないが、何らかの力がシステムに干渉しているらしい」
巨大な手袋の前にいくつか出ている画面
リタの出すものと違って、こちらは六角形がいくつか連結した蜂の巣のような形だ
を見ながら、マスターがうんうんと唸る。
「それ、大丈夫なのか、マスター。システムの不調なんて、場合によっては大惨事だろ」
「マスターはときどきテキトーだもんね〜」
他にも服を着た二足歩行してる狐とか。しゃべるピンク玉だとか。その辺でくつろいでる靴履いた緑の大トカゲ、つか恐竜?だとか。その大トカゲと談笑してるネクタイ締めたゴリラとか。
ここにいる者たちのことは、深く突っ込まないようにしよう。深く考えたら、きっとキリがない。
とりあえず今現在装備中の剣(もちろん宙の戒典<デインノモス>だ)を確認して一安心しておくことにした。
「復旧にはしばらくかかる。それまで自由にしていてくれ」
最後にそう締めくくって、マスターハンドは画面を消した。
「しばらくってどのくらいだよ。オレ、今急いでんだけど?」
いつもの調子で皮肉るユーリ。一刻も早く帝都にたどり着いてエステルを『助けに』いかなければ。
「善処はする。が、時間の心配なら無用だ」
「どういうことだよ」
マスターの言葉にユーリは目を瞬く。
「この世界は、マスターが創った世界だっていうのは話したね?で、つながった先の次元とは時間の流れが違うんだってさ」
赤い帽子に青いオールバック、大きな鼻の下にゆったりとした黒い口髭を蓄えたナイスミドル
マリオが言った。
「まあ難しいコトはさておき、アンタがこの世界に飛ばされたその時間にもどれるってこと。こっちでどのくらい時間がたとうが、あっちではゼロ、って事らしいよ」
「部屋の空きも確かあったはずだから、復旧作業が終わるまでの間、好きな部屋で寝泊まりするといい。家具など必要なものは、私に言ってくれ。すぐに創ろう」
「なんか、至れり尽くせりでわりぃな」
サンキュ、と軽く礼を言うユーリ。
「まあ元々はマスターの不注意のせいだから、いいんじゃない?」
横縞のTシャツに短パンと、元気少年を絵に描いたような黒髪のこどもが、少々毒舌気味に言った。
「なんか辛辣だな、えっと・・・?」
「ぼくはネス。しばらくよろしくね、ユーリ」
「おう、よろしくな」
そう言ってクシャリと頭を撫でてやる。
「おハナシ終わった〜?」
きゅるるるる、とおかしな音がした方を見ると、小さなピンク玉が腹(?)を抱えていた。
「ボクおなかすいた〜〜〜」
ハァ、とため息をつく。何か微笑ましいな。
「リンクぅ〜〜、ルイージぃ〜〜、ゴハンまだぁ〜〜〜?」
「そう急かさないでよぅ」
そう言って奥の部屋
どうやらそちらが台所のようだ
からマリオによく似た、けれども彼より背の高い、緑の帽子に青いオーバーオールを着た気の弱そうな男が、さながら配膳ゲームのような量の料理とともに現れた。その後ろには、リンクも続く。もちろん、両手の乗せられる場所に乗せられるだけの料理を乗せて。
「手伝うか?」
「お客は、おとなしく座っておけ」
あまりの多さに見かねて立ち上がろうとしたユーリを制して、金髪の美女
ジュディといい勝負な体型だ
サムスがリンクのもとへいく。
「へぇ。今日はずいぶん豪勢だね」
次々と並べられる料理の数々に、マリオが声をあげた。
「なんたって黄金の緑コンビだもんね!」
と、ネスが言ったのに対し、リンクが若干退いた。
「そのコンビ名、全力で断るよ」
「リンク・・・ひどいよ」
もう一人の緑
ルイージが涙目だ。
「しかしよくフォックスが許したな」
サムスが食器を配りながら言った。
にしても、随分男勝りな口調なんだな・・・
「客が来てるのにケチったら失礼だろ
ただし、今日だけだからな」
小柄な二足歩行の狐
まんま、フォックスが、ビシッとユーリを指差した。
「そりゃ悪かったな。何か気ぃ使わせちまったみたいで」
「ユーリが気にすることないさ」
そう言ってポンポンと背をたたくマリオ。
「そうそう、フォックスが普段ケチすぎるんだよー」
ネスがそれに一言加える。
「よし、ネスの小遣い減 一週間、と」
「えぇ!?」
どこからかそろばんを取り出して、パチパチと弾くフォックス。いつの間にか、メガネまでかけている。
「口は災いの元だ」
「ちえ〜〜っ」
ネスのところに食器を置きながら、サムスが諭した。
「そうそう、ユーリとか言ったな」
さて、食い始めるぞ、という頃になって、隣に座っていた筋骨隆々の男
たしか、ファルコン、だったか…? ファルでいいか
が、声をかけてきた。
「ここで生き残るためには、遠慮なんてかなぐり捨てろ
餓死するぞ」
「あ?」
急な言葉に、頭に疑問符が浮かぶ。
「食事時は戦闘だ」
その顔は、冗談抜きの、大真面目だった。
「は?」
さらに増える疑問符。
戦闘?
メシなのに?
そんなユーリの疑問は、いただきますと全員が言った次の瞬間吹き飛んだ。
まず、皿の上のメシが宙を舞った。
その先は何とあのピンク玉。
「カービィ!食事中は吸い込み禁止って言ってるだろ!!」
フォックスがドン、と足をテーブルに乗せて叫ぶ。
「おいヨッシー、おまえそんなにいっぺんに口の中にもの入れてたらまた喉詰まらせるぞ」
その隣ではマリオが、さらに隣にいる緑の恐竜に声をかけている。「ドンキー、バナナばっかりじゃなくて僕の料理も食べて、ね?」
わずかに耳に届いたルイージの声の方
フォックスの反対側だ
を見れば、何で今まで目に入ってなかったのか不思議なくらいのバナナの山と、それを次々と皮だけにする赤ネクタイの茶色いゴリラ。
そんな光景をほうけて見られたのは最初の数秒間。
ヤッベ、完璧に出遅れた・・・!
ハッと我に返り、急いで料理を手元に引き寄せる。
引き寄せ損ねた料理は、カービィによって次々に宙を舞う。それを目で追っていくと、料理の一部が、急に光って方向を変え、ネスの皿の上に軟着陸した。ネスの表情を見るに、カービィを利用して何らかの方法で自分の分を横取りしているらしい。
隣のファルコンは狙っていた料理を取り損ね、悔しがっている。
このテーブルでただひとり、サムスのまわりだけはカービィの被害にあっていない。よく見れば、皿のまわりに見えない壁のようなものがあるみたいだ
便利だけど、なんかそれ狡くねぇ?
「今日という今日は、許さん」
がちゃりと銃を取り出したフォックス。ターゲットはもちろんカービィ。
「ちょっ、フォックス!それは駄目だって
ルイージ!そっちから押さえるんだ!」
「わかったよ兄さん!」
両脇からそれを押さえるマリオとルイージ。
あ、似てると思ったらやっぱ兄弟だったのな。けどルイージが弟かよ。
兄弟のタッグむなしく、発射される光線。もめにもめる為、何発もの光線があらゆるところに飛んでいく。
もちろんユーリが座っている席にもだ。
皿を持ち上げ、あわてて回避。その間にも、容赦なく食い物を吸い込むカービィ。まるで底無しである。
これは、本当に命がけだ。
たらりと冷や汗。
いくつもの光線をかわしながら
あとでよくやったと自分を誉めたい はたと我に返って気づく。
そういや、小動物みてーなサイズのピカと猫耳が付いたもう一匹のピンク玉は・・・
そう、ピカと猫耳ピンク玉がいない。カービィの吸い込みと、フォックスの飛ばす光線に注意しつつ、周囲を伺い、そして見つけた。
「ピィ、カ」
「プリィ〜〜」
殺伐とした騒ぎの傍だというのにここだけは癒しの空間。
どうやら彼らだけはさすがに別メニューのようだ。
つーかリンク、てめーまでなんでそこにいんだよ。しかもちゃっかり自分の分は確保済みなのな。
オレも台所引き受けっかな・・・