Chapter.1 - 3, 食後のひととき

食事も一段落し、ユーリはぐったりと長椅子にもたれかかっていた。

旅を始めてしばらく経つが、こんなに体力を削られるような食事は初めてだ。この先、少なくとも一週間コレが続くのかと思うともう気が遠くなる。

早くシステムとやらが復旧することを願おう。マジで。

ふと、水音がして、そちらの方へ顔を向ける。そこは、食事が始まる前に緑コンビが料理を手に現れた出入り口だった。ユーリの座っている位置からは見えないが、確かに水音と、それに混じってカチャリカチャリと硬質の物同士が触れあう音が聞こえてくる。気になってそちらへ近づき、中を覗けば、思った通りそこは台所のようだった。

そこそこの設備を兼ね揃えた台所は、こじんまりとしているがそれなりの広さがあり、奥の食器棚には大量の皿と、壁一面ほどある巨大な冷蔵庫。成る程、あの人数を捌けるワケだ。

視線をあちらへこちらへと動かし、水音の発生源であるこれまたでかい流しを見やれば、そこには帽子を脱ぎ、尖った長い耳をした金髪の青年の姿。そういえば、リビングからいなくなっていたことを思い出す。


「手伝う」

袖をまくりながらユーリは青年     リンクに近づいた。

声をかけられたリンクは、少々驚きながらもきょとんと首を傾げる。

「え、お客サマはなんにもしなくていいものだろ」

「いや、そんなことねーと思うけど・・・」

何だその基準。一体誰が言ってたんだよ。

「そうなのか?でも」

「なんにもしねーのも気が引ける性分なんだ     これ、こっちでいいのか?」

なおも渋るそぶりを見せる青年を制して、既に洗い終わった食器類をまとめていく。

「そうか・・・じゃ、頼む」

ありがとうと素直に礼を言い、皿洗いに戻るリンク。

カチャリ、カチャリと音が響く。

「いつもひとりでやってんのか?」

しばらく無言が続いて、つい口を開いてしまった。


「当番のときは大体ね」

「当番ってんならルイージもだろ。いいのかよひとりで引き受けてて」

食事を用意したのはリンクとルイージだったはず。なのに今はリンクひとり。不公平ではないのか。

「アレ見ても、そんなコト言える?」

リンクに促され、リビングをそっと見る。

部屋の片隅には、同じような態勢でぐったりと天井を仰ぎ、魂の抜けたように椅子に座る赤と緑の双子の姿がある。

そう言えば食事中、暴走したフォックスを止めに入っていた。

「・・・いえねーな」

アレを働かせるのは、なんとも忍びない。

「だろ?食事のたびに誰かが暴れるから、たいてい何人かはああなるんだよ。中には上手く避けられるヒトもいるんだけど」

「ああ、サムスとか、ネスとかか?」

「今日はそうだったね」

「ってことは、あいつらも暴れるってか?」

あまり聞きたくなかった事実だ。あの美女が暴れる姿なんてなかなか想像できない。カロルとタメはるくらいのネスはともかくとして。


「リンク!僕、クッキーが食べたい!」

そのネスが、頭にカービィを乗せて元気良くやって来た。

「ゴハン食べたばっかじゃないか」

「今からつくれば丁度良いでしょ?」

「んー、でもなぁ・・・」

リンクが渋る。ま、当然と言えば当然か。それなら     

「デザート食いてーってか?そういう事なら、オレがつくってやるよ」

ユーリの発言にきょとんと目を瞬かせる少年たち。


「え、ユーリにーちゃんも料理できるの?」

そんなに意外か?

「まあ、大体な。ちょっとまってろ。クッキーよりいいモンつくってやるから」

こんだけデカい冷蔵庫があれば、材料にゃ困らねーだろ。

楽しみにしてるね、と言ってぱたぱた走り去って行った一行を見送って、ユーリは冷蔵庫に近づき、開いた。

開いてみれば案の定、どこぞの厨房に備えられていてもおかしくない、冷蔵室のような造りになっていた。こりゃ慣れるまで何がどこにあるのか探すのすらも苦労しそうだ。

つーかここの連中、どんだけ食うんだよ?

「何つくるんだ?」

ユーリの後に着いて、リンクも冷蔵室に足を踏み入れた。

「そうだな、じゃ、お前も手伝えよ。一人でこの人数分つくるにゃ、さすがに手間ァかかるからな     大食らいも何人かいるみてーだし」

「!おいしい・・・!」


子どもたちの第一声を皮切りに、屋敷の面々がユーリの作ったクレープをおいしそうに食べていく。ユーリは、そんな無邪気な顔を遠くで眺めつつ、自らもクレープに手を付けはじめた。


「へぇ、クレープか。久しぶりだな」

そのそばで、しみじみと言ったのはマリオ。

「そうなのか?アンタの弟、あんだけ料理が上手けりゃ、つくれそうなモンなのに」

さっきの昼飯はずいぶんうまかった。それこそジュディといい勝負なくらい。

そんなユーリの言葉に、マリオが肩をすくめて答えた。

「ああ見えて、ルイージはお菓子類苦手なんだよ。僕が知ってる姫はその逆で、お菓子作りが上手いんだけど、それ以外はてんで駄目だったし     思い出したら、姫のつくったケーキが食べたくなったな」

ふう、とマリオがため息をついた。

何だコレ。ノロケか?

「リンクだってそこそこ料理できるんだろ?」

そのまま放置したらひとりでピンクの空間を作り出しそうだったので話を戻す。この手の話はおっさんのだけで十分だ。


「あれは、ここに来てから覚えたんだよ。ルイージから教わってたから、覚えられたのは家庭料理の類だけ。そもそもリンクの世界には、機械の調理器具とか、そういう便利なモノはなかったみたいだしね。その辺はファルコンやサムスに使い方教わってたみたいだよ」

「へえ、それであんなに腕が上がってんのか」

「きっと人一倍飲み込みが早いんじゃないかな。ちょっと教えただけでスポンジのようにものを覚えていったのは、けっこうな見物だったよ」

「はは、何かわかるな、それ」

先ほど教えていたときも、かなり飲み込みが早かったのを思い出す。教えたそばから覚えて行くのは、教える側としても楽しい。


何より素直なのだ。年に似合わず。

そう、まるで幼いこどものように・・・

「なあ、リンクっていつもあんなんなのか?」

ふと、気になって問うてみた。

「あんなって?」

「しゃべり方。あれじゃガキだろ」

するとマリオは目を丸くした。


「・・・ユーリは鋭いな」

そうして、ソファーでピカチュウと戯れるリンクを見る。

「ガキみたい、じゃなくて本当にこどもなんだよ。中身はね」


「どういうことだよ?」

マリオの答えに首を傾げる。

「僕も、僕たちも最初に聞いたときは驚いたよ」

じっとマリオの話に耳を傾ける。が、マリオは、ふとこちらに向き直り、微笑んで言った。


「まあ、本人がいないところで話してしまうのも何だから、つづきはいつか、リンクに聞いてみるといい」

どうやら、ここにいる連中にも色々あるらしい。ひょっとしたら、目の前のこのナイスミドルにも。



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