何とか収まった馬鹿三人集の騒ぎの後、一同は紅雪羅が根城にする件の建物の見取り図とその周辺図を囲むように座っていた。この輪には、百華の女も数名加わっている。
最初は、銀時らが作戦に加わる事をためらっていた月詠だったが、先の馬鹿騒ぎを聞きつけて現れた日輪の鶴の一声により、渋々了承したのだった。
「さて、ここからが本題じゃが、ぬしら、腕にはどれほどの自信がある?」
元遊郭の廃屋の内部構造を簡単に説明した後、月詠が確認するように問いかけた。ともに戦ったことのある万事屋の一行や、遊女を救ってくれたことがある剣心はともかく、他の者たちの力量ははっきりとはわからない部分が多い。
「強いですよ」
何も臆する事無くさらりと宣言する宗次郎。当然月詠がいぶかしむが、そこに剣心の助け舟が出る。
「宗次郎殿は、縮地の使い手でござる。剣の腕も拙者が保証する。斥候などに向いてると思うが」
「ほう、縮地か。それは心強い
ならば」
月詠が見取り図に目を落とし、建物の一角を示す。
「宗次郎と緋村殿は、百華数名とともにここから潜入し、内部において騒ぎを起こしてくれ。騒ぎに乗じて百華<わっちら>は四方から突入し、畳み掛ける。おそらく乱戦になるじゃろうから
銀時」
建物を囲むようにぐるりと手を動かした後、今度は正面からそれた小さな勝手口を指す。
「ぬしらは戦闘の合間をくぐり抜けて敵地に潜入し、例の鉱石とやらを押さえてくれ」
「ほぉ、さすがは百華のお頭ちゃんじゃ。吉原を守って来ちゅうだけあるのう」
あごに手をやって感心する坂本。が、その隣の桂は、それとは対照的に腕を組み、眉間にしわを寄せてじっと見取り図を見下ろしたまま考え込んでいるようだった。
「桂殿?」
剣心が、そんな桂の様子に気づいて声をかける。
声をかけられた桂は、うむ、とひとつ返事をすると、おもむろに口を開いた。
「此度の件、確かに敵の所有する鉱石を掌中におさめることも重要。其方の策は決して悪くはないが
少々、戦力を偏らせすぎているのではないか?」
その言葉に、月詠が目を丸くする。
「そこらの天人くれぇなら、百華だけでも十分なんじゃねーの?こいつらだってけっこー強いんだぜ?」
ひとり見取り図から離れて寝転がる銀時が、欠伸混じりに言った。百華の実力は、鳳仙との戦いのときに見ている。苦闘を強いられた戦いだったが、あれは相手が鳳仙であればこその差だったのであろうことは、共闘した銀時が一番知っている。
「うむ、百華の評価は俺たちの間でも決して低くはない
だが、俺たちが掴んだ情報によれば、何でも奴ら、荼吉尼族で編成した隊を擁しておるらしい」
その種族の名に、銀時ら万事屋一行は小さく息をのんだ。
「荼吉尼族とは?」
銀時らの反応とは対照的に、剣心と宗次郎は首を傾げる。
「宇宙で一番ち呼ばれちゅう夜兎族に並ぶ傭兵部族んひとつじゃ。夜兎と比べればそがぁに速うないが力だけはたんまりあるき、なかなか手強い奴らじゃ」
「へえ、なんだか面白そうな相手ですねぇ」
一人場違いに楽しげな感想を述べる宗次郎。神楽がぎゅっと睨みつけた。
「戦闘になれば、其奴らが前線に立つのは必至。奴らへの揺動に百華のみでは心許なかろう」
「規模は小さくても、宇宙海賊と名乗るだけはある、ってことか」
体を起こしてがしがしと頭をかく銀時。
「ならば、まだ隠れた戦力もあり得ると?」
剣心がそう言うのを、だろうな、と桂が返す。
「月詠殿、こういうのはどうだろう」
桂はそう前置きして述べ始めた。
「内部侵入
例の鉱石は俺と坂本が押さえよう。銀時、お前は月詠殿とともに百華を率いて正面から行け。斥候は緋村殿と宗次郎殿に任せる。内部に侵入する者は、可能ならば外部との連絡手段を絶とう。敵に増援を与えないようにできれば、後は地上や宇宙<そら>から押さえる用意がある」
そこで桂は坂本の方に視線をやり、応じるように坂本が頷いた。
「中での用事が済み次第、偶然の態を装って俺たちも合流する
騒ぎを聞きつけ、真選組が動かぬとも限らんからな。この件で今後、百華の立場が危うくなっては元も子もあるまい。この方が後の都合も良かろう
どうだ?」
彼が示したものは、此度の件だけではなく、今後のことも考慮した上での策であった。
「異論はない。さすがは狂乱の貴公子じゃ」
ふう、と煙を吐いて月詠も頷いた。参った、というような微笑みをのせて。
「桂さん、僕たちは?」
今の話では、新八と神楽がどこに振り分けられるのかはっきりと言及されていない。
「うむ、そうだな。リーダーと新八君は俺たちの方に
」
「待つアル、ヅラ」
神楽が桂を遮っった。キッと顔を上げる。
「私も先公になるアル」
「神楽ちゃん、斥候ね」
「黙ってろヨ眼鏡」
なんだか目が据わっている。
「剣ちゃんと一緒に、私もその軟弱野郎と一緒に行くネ」
「えー?それは困りますよ」
真っ先に異を唱える宗次郎。
「だってあなたみたいな女の子連れたら足手まといじゃないですか」
ことりと首を傾げて平気で思ったことを発言する。彼のその態度に、神楽の額には青筋が立った。
「んだとコラ。私だって本当は銀ちゃんやツッキーたちと一緒に行きたいアル!でも今回は我慢してお前らの面倒見てやるって言ってんだヨ。ありがたく思えよコノヤロー!
そもそも足手まといになるのはお前ら田舎者どもの方アル。天人には天人ネ。茶吉尼は任せるヨロシ!」
「何と、神楽殿は天人でござったか」
天人のことを聞いてまず示されるのは、地球人からかけ離れたあの容姿だ。神楽の容姿はほぼ地球人のそれと大差無い。
「それもさっき言った夜兎だ。よっぽどの大物でも出ねー限り、大丈夫だろ」
「オイ、聞き捨てならねーなこのテンパ」
そう言えばたしか、万事屋に居候を始める頃、彼女は人が乗れるほどの体躯の定春を担いで見せていた。そうすると他にも、単に彼女の体質だと思われていたもの、例えば日の光に弱いなども夜兎族の特徴なのだろう。
「人は見かけによりませんねぇ、緋村さん」
「その通りでござるな」
「いや、あんたが言わないでください」
ある意味一番『見た目によらない』人物なだけに。
「あとは、そうだな。できれば百華の者も何人かこちらに加わってほしいところだが・・・」
桂が月詠と、この場に参加する百華の面々を見やる。
「それならあちきらで適当に見繕えます」
百華のひとりが声を上げた。
「助かる。内部構造を熟知した者がいるのといないのとでは違うからな
まかせたぞ」
月詠が頷き、口を開く。
「みな、これまで百華が相手をしていた名ばかりの浪人とは訳が違う。銀時がわっちらの方に回るとはいえ、心してかからねばならん」
「ああ、無理に殲滅させようとは考えるな。被害がこれ以上広がらぬようにできればそれでいい。俺たちには、地上にも頼れる者たちがいることを忘れるなよ」
桂が締めくくる。どしりと構えるさまは、まさにただのテロリストではない、本物の攘夷志士と言われるだけある。
あえて問題をあげるならそれはひとつだけ。
「あの、盛り上がってるとこすみません、桂さん」
「何だ新八君」
「かっこ良くまとめてくれたのは良いんですけど、いい加減着替えてくれませんか?
色々とその、締まってないんで」
ずっとヅラ子のままだった。
12' 2. 28 小説投稿サイト『にじファン』掲載
12' 7. 20