それから数十分後。万事屋と真選組は、テーブルを挟んで対面する形で、銀時の話に耳を傾けていた。
室内にあるそれ以外の音は、新八が出してきたお茶を、机に寄りかかった沖田がずず、とすする音と、銀時の隣で神楽が酢昆布をぽりぽり貪る音くらい。
「ってな訳だ」
一通りのことを話し終え、銀時はそう締めくくった。もちろん出所が出所なだけに、桂に関する情報の一切を伏せて。
「また面倒なことに巻き込まれやがって・・・」
土方がイライラと舌打ちする。
「旦那ァ。本当どこから情報を仕入れてるんですかィ?俺らが紅雪羅の件突き止めたのは、つい最近ですぜ」
平坦な声で、沖田が言った。
「そりゃあまあ、企業秘密って奴だよ。こんな商売やってるとな、色んなとっから情報が入ってくんだよ。どうだ、参ったか、税金泥棒どもが。ちったァ真面目に仕事しやがれ」
長椅子にふんぞり返ってちゃかす銀時。
「チッ、コノヤローが調子に乗りやがって」
ハァ、とため息をつきながら、土方はすっかり短くなった煙草をぐりぐりと灰皿に押しつけた。灰皿には他に2、3本の吸い殻がたまっている。
「しかし吉原たァ、また面倒くせーとこに潜り込みやがったな」
「面倒、とは」
忌々しそうに腕を組み、足を組み替える土方に、万事屋側の長椅子のそばに立つ剣心が問う。土方の隣に座る宗次郎も、微笑みに僅かな疑問符をのせて隣の土方を見た。
「お二人は知らねーでしょうが、あそこは治外法権みたいなもんなんで、俺たち幕府関係者は、下手に手出しができねーんでさァ」
「前の楼主、夜王鳳仙がいたときよりは幾分かマシにはなったみてーだがな。相変わらず幕府が黙殺する場所には違いねぇ。今のところは、そこの自警団とやらが睨みを利かせちゃいるが、この状態もいつまで保てるか・・・」
沖田が剣心と宗次郎の方を見ながら答え、その続きを土方が引き取る。天人によって傀儡となっている今の幕府が相手では、太刀打ちできぬどころか、逆に都合の悪い道具として処断されかねない。
「さっさと片付けないと、被害の規模が膨れ上がる、か
仕方ねえ」
がしがしと頭を掻き、銀時が立ち上がる。そうして机のわきに立てかけておいた木刀を腰に差した。沖田が声をかける。
「旦那、何処へ」
「こんな話の流れじゃ決まってんだろ」
肩をひょいとすくめて、玄関へ歩き出す銀時。
「待て。吉原には自警団がいる。下手に嗅ぎ回ったら命はねーぜ」
銀時の方は向かぬまま、土方が口を開いた。
「大丈夫だって。言ったろ?銀さんの顔の広さなめんじゃねーよ」
こちらに向けて放たれた、意味ありげな台詞に、笑み。
こいつ、吉原にまで顔が利くのか。
吉原と言えば江戸一番の色町である。この万年金欠駄目男が、そんなところにまで根を張っているとは驚きだ。
最近のネタと言えば、謎の炎上事件くらいだが・・・
「銀ちゃんが行くなら、私も行くネ」
神楽もさも当然と行ったように腰を上げた。
「僕も行きますよ」
神楽のすぐあとに続く新八。
「なら、拙者も」
「あ、僕もご一緒していいですか?」
そうやって芋づる式に名乗りを上げる歳若い面々。それを見て銀時も大仰にため息をついた。
「おいおい、吉原って色町だぞ。お子様にはちょっと早いんじゃねーの?」
「今更じゃないですか。僕たちも、剣さんだってけっこう出入りしてますし」
「それにあそこには晴太だっているネ」
反論する新八と神楽。確かに色々あって、あそこはこのメンバーでよく足を伸ばしに行く町でもある。
「それもそうか。だけどよ・・・」
まだ渋った様子の銀時が、剣心と宗次郎の方を向く。その視線に気づいた宗次郎が朗らかに、続いて剣心が少々困ったように言った。
「大丈夫ですよ。僕も元服は越えてますから」
「拙者もこれで一応29でござる」
「「「・・・・・・・・・・」」」
「ウッソォオオオ!!!テメーそのみてくれで29ゥウウウウウウ!!?」
しばし降りた沈黙を、最初に破ったのは銀時だった。
「29って近藤さんと一緒じゃねーか!」
銀時に続く土方の台詞に、今度は剣心も驚いた。
「おろ!?あの御仁、そんなに若いのでござるか!?」
「随分老けて見えましたねぇ」
「あんたらさりげに失礼だな!」
新八のツッコミが入る。
「ねえ、嘘だよね?そのなりで三十路一歩手前ってどんだけ詐欺なの?あり得ねーだろその童顔!」
銀時が汗を大量に流して動揺している。
「てっきり総悟と同じかいってても少し上くれぇだろうたァ思っちゃいたが・・・」
土方が新しい煙草に火をつけようと、愛用のマヨ型ライターを取り出した。彼もその動揺のあまり、手が震えてライターの火がいくつもあるように見える。
「すごいネ剣ちゃん!人体の神秘アル!銀ちゃんの方が年下ネ!」
神楽が嬉々として声をあげる。
「本当、すげぇや緋村さん。敬えよ土方」
「何でテメェが威張ってんだ!」
11' 11. 20 小説投稿サイト『にじファン』掲載
12' 7. 30