第十二訓 街の名前は急に変わってもなかなか馴染めない

「お前・・・」

桂が思わず声を漏らす。


今の今まで     銀時が襖を開けるまで、全く気付けなかった。それは隣に座る坂本も同じなようで、わずかに開いた口がそれを示している。


「極限まで気配を殺していたのでござるが、真選組隊士たちを軽々と平伏せてしまう腕といい。やはり、ただ者ではないようでござるな」

普段よりも声のトーンを落とし、剣心が口を開いた。

その台詞に銀時が口の端を持ち上げる。

「まあそう言ってやるなよ。あいつらは攘夷戦争が終わった後にできた組織らしいからな。対テロリスト程度の戦闘しか知らねーんだよ」

「そんでのーても銀時は人の気配ば読むのがいっとー巧いきに。あんまり気にする事なか」

坂本がぽりぽりと指で頬をかく。

「お主らの太刀筋は、やはり戦を経験した者の剣でござったか」

ふ、と剣心が微笑みを見せる。

「そう言うテメーも、相当修羅場越えて来てんじゃねーの?     まあ、入れや。ガキどもが起きちまう」

そう言って銀時は剣心を手招いた。ちらりと剣心が見やれば、今なおすやすや眠る新八と神楽。起こしてしまうのは確かに忍びない。刀を片手に、剣心が奥の間に入って来る。

それを確認して銀時は開けた時と同じように静かに襖を閉めた。

「して銀時、当事者というのは一体どういうことだ?」

剣心が座り、銀時がもとの位置に戻って来るなり桂が口を開く。


「ああ、月詠の話じゃ、吉原で起きてる行方不明の連中と一緒に、身元のわからねー流れ者も出てんだとよ。時期も一緒とくりゃ何かつながりがあるかもしんねーだろ」

「このご時世に身元が分からんとはどういうことじゃ?」

天人の技術の導入で、情報が溢れている中、突き止められないものの方が少ない。

「俺もその辺気になって、その流れモン     ッつっても、百華や日輪の計らいで、元浮浪者の奴が多いんだけどよ     そいつらにハナシ聞いて回ったんだ。そうしたら面白いことに、みんな聞いたこともねー街の名前を口にするんだよ。緋村もそのひとりらしくてな」

「聞いたことの無い街の名、とは?」

首をかしげた桂は、剣心の方を見やる。


「それは、『東京』のことでござるか?」

剣心の言葉に銀時が頷く。

「『とうきょう』?日本のどの辺りかや?」

顎に手をやりながら坂本が問う。剣心は少し戸惑ったような表情を浮かべた。


「おそらく、ここ、江戸と同じ場所になるはずでござる。拙者の知る東京という場所は、元々江戸という名だったと記憶しているのだが・・・」

「それはまた・・・」


「だろ?他にも江戸なんて時代遅れだの、今は華の明治の時代だのワケわかんねー事ばっかりでよー。何より吉原に現れた直前の状況が似通ってやがる」

「直前の状況?」

「どういうことじゃ」


「つーワケだ、緋村」

銀時はにやりと口端をつり上げて言った。


「こいつらに話しちゃくれねーか?オメーがあの吉原に迷い込んだその時の経緯とやらをよ」

剣心はしばし銀時を見、そして「承知した」と頷いた。

「拙者も、身の回りに起きた事が多すぎてまだ解らぬ事が山ほどあるでござる。差し支えなければ、教えてはいただけぬでござるか」


吉原に、かぶき町に、この江戸という街に来て、これまで彼が目にしてきたもの。


彼が知るものと似て非なるもの。

街を歩いて目に入る、見たこともない姿形の異邦人たち。

すべてここで、整理しておきたい。

「この場所は、この国は、一体どういうところなのかを。特に、先刻からも話にあがっている、『あまんと』とは一体何者なのかを」


これは、剣心にとってもまたとない機会だった。

10' 10. 15  小説投稿サイト『にじファン』掲載
12' 8. 31

宴もすっかり落ち着いた深夜。

桂、坂本、銀時の3人は、別室で話をしていた。


最近宇宙で騒がれている鉱石の話。

それを秘密裏に地球へ運び込む怪しい天人集団     『紅雪羅』。

吉原で起きている事件とも時期が近い事から、何かのつながりを予想した銀時は、吉原の事件の当事者でもある剣心を自分たちのいる部屋に招いたのだった。

<ここからあとがき>

ようやく剣心がお話に本格的に絡んで来ましたよ。


な、長かった・・・

<さらにあとがき>

最初に載せるとき、書いてた文章が一部どこかに行方不明になりまして・・・
(多分自分で消したかなんかして忘れた・・・?)

ちょっと付け足しました。


すっきりした、かな。

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