宴もすっかり鎮まった深夜。


灯りは既に消され、薄暗い室内をすやすやと寝息が満たしていた。

主に神楽あたりがあまりに騒いでいたために、部屋はあちこちに物が散乱している状態だ。

そんな騒ぎから離れた様子だった剣心も、坂本に勧められるままに呑んでいたせいか、今は壁にもたれ、刀を抱えたまま眠っている。


よほど疲れたのだろう。神楽も新八も、疲れて横になったそのままの体勢で眠っていた。すやすやと眠る姿は微笑ましい。

銀時は、そんな子どもたちの様子を、隣室に続く襖の影から眺めていた。


「よく眠っているな」

奥に控える桂が口を開いた。

「ああ」

銀時もそっと微笑むと、静かに襖を閉め、くるりと振り返った。


襖で隔たれた部屋にいるのは、銀時、桂、そして坂本の三人。一番奥に控える坂本の隣には、行灯が据えられ、部屋を照らしていた。

「で?辰馬。桂まで呼んで俺たちに話って何だ」

銀時は坂本の隣     桂の向かい側にどかりと座った。

「ん、おまんらの耳にも、入れちょいた方がええと思っての」

そう前置きして、坂本はパン、と胡座をかいた両腿を叩き、丸いサングラスをツイッと押し上げた。


「近頃宇宙で騒がれちゅう、ある鉱石(いし)の話じゃ」


「石?」

坂本の言葉に、ふたりは眉をひそめた。

「何でもそん石は限られた星でしか採れん珍しー石でのう。取引自体も珍しゅーて、今わしら商売人の間じゃあ喉から手が出るほど欲しい金のなる木じゃゆーて噂されちゅう」

「いいねェ、金のなる木。俺もがっぽり儲けてみてーや」

銀時が茶々を入れる。

「じゃがそいつはちぃとばかし厄介な所がおおてのう」

「厄介とは?」

桂が先を促した。


「そがあ内に秘めちょう莫大すぎるエネルギーじゃ」

坂本のサングラス越しの目から、笑みが消えた。

「聞いた話じゃあ、空間ばねじ曲ごうたり、ブラックホールばできたりとえらい危険じゃゆーてのう。すぐにそん石の取引ば宇宙規模で制限されるようになったんじゃ。限られた機関でくわしゅう研究するゆーての」

「お偉いさんのやる事ァ何処に行っても同じだねェ」

「ところがじゃ。そいつが色んな検問の目ばすり抜けて、どーも地球に、それも大量に流れちゅう話ば聞こえて来るようになったきに」

「この星にか」

銀時も桂も目を瞬いた。いくら天人の技術で大いに発展しているとはいえ、所詮は辺境の星。いくら最新の研究機関と言われようと、天人のそれに比べればまだまだその足下にも及ばぬのは動かしようもない事実だ。

「そがあに珍しーもんが、この辺境の星に大量に流されゆうのが気になっての。調べてみたら、そのうちの半数以上が地下に流れちょるんが判ったんじゃ」

「吉原か」


銀時が苦い顔をする。視線を僅かに襖の方へずらしたが、桂が口を開いたためにふたりがそれに気付く事は無かった。

「その話なら俺も聞いた。どんな物かはまだ聞いておらなんだったが、何やらこそこそと地下の方へ物資を運び込む怪しい天人集団がいるとか」

「天人集団ねぇ・・・どんな奴らだ?」

銀時が桂に先を促した。

近藤や土方たちにしつこく当たらなかったのも、こちらの伝手があったからだった。銀時の思った通り、桂も既に天人集団の正体をつかんでいるらしい。

ひとつ頷き、桂は話を続けた。


「宇宙海賊『紅雪羅』。
『春雨』のように大規模なものではないが、こちらも宇宙を股にかける宇宙海賊だ。いや、連中の海賊行為を見ていると『春雨』のほうが大人しいかもしれん。なんせ奴らの目的は、狙った星を破壊する事を楽しむ事。理想も何も無い」

桂の話に、思わず舌打ちが出る。

「よりにもよって質の悪い・・・吉原じゃ今失踪事件なんかも起きてんだぜ?百華は今手が回らねえ」

面倒なと言わんばかりに乱暴に銀の髪をくしゃくしゃと掻いた。月詠が無理しそうな話ばかりである。

「ふむ、吉原界隈の事情はお前の方が詳しそうだな、銀時」

何か思案するように、桂が言う。

「いつ頃からその失踪事件ちゅうんが起きゆうがかわかるかや?」

まあな、と桂の言葉に相づちを打つ銀時に、顎に手を添えてこちらも何か言うところがあるのか、坂本が問いかけた。

「たしか・・・一ヶ月ちょい前、つってたか     何、何か関係あんの?」

銀時の返答に、ふたりの雰囲気が難しいものに変わる。


「さっき言うた石もな、そん頃から地球ば流れ始めちゅー話じゃった」

「紅雪羅の天人どもが流れ込んで来たのもその頃との情報だ。これは、何か関係があると見ても良いだろうな」

「なるほどな」


そう言うと銀時は、すっくと立ち上がった。

「銀時?」

突然立ち上がった彼に、桂も坂本も疑問符を浮かべる。銀時はそのまま音を立てずに神楽や新八らが眠っているであろう部屋への襖に手をかけた。


「なァに、ここから先は当事者にも話に加わってもらおうと思ってよ     なあ・・・」

襖が開かれる。


その先にいたのは、刀を肩にかけ、部屋と部屋を結ぶ襖の傍に腰掛けた赤い長髪の青年     

「緋村さんよ?」


剣客の瞳が、声の主を見上げた。

10' 9. 20  小説投稿サイト『にじファン』掲載
12' 7. 29