真選組の依頼を終えて、万事屋の一行は、歌舞伎町の歓楽街を歩いていた。
きらびやかなネオンがそこかしこと点き始める中、カラコロと下駄を鳴らしながら先頭を歩いていた坂本が不意に立ち止まる。
「ついたぜよ」
そこは、その通りの中でも一際大きく、日本独特の趣のある建物だった。
「た、辰馬殿。ここ、高級料亭と言うやつではないのでござるか!?」
剣心が狼狽した。ここ一週間の万事屋の経済状況を見ているだけに、この見るからに高級そうな旅館は畏れ多い。
「わしの知り合いがやっちゅう店じゃき。そがなこんまい心配はいらんぜよ」
坂本が太鼓判を捺した。
「さっすが宇宙を股にかける快援隊社長。やるねぇ」
坂本の素性を知っているため、逆に喜んだのが万事屋一行。
「やったネ!久しぶりにゴハン食べ放題アルゥウウウウ!!」
キャッホォオオオオ!!
とばかりにかけて行く様はこどもらしいと言えばらしい。陽気に笑いながら、坂本も中に入っていく。
それを後ろから微笑ましく見ていたのが新八。
「ハハ、神楽ちゃんたらあんなにはしゃいじゃって」
「すまねぇ神楽。銀さんが不甲斐無いばっかりに・・・」
目元に手を当てて項垂れる銀時。
「反省してるんならパチンコは控えて下さいよ」
「違うんだよ。いつも良いところまで行ってんだよ。なのに土壇場で勝利の女神がトンズラしちまって」
「はいはい。馬鹿はほっといて行こう、緋村さん」
剣心の背を押して新八が門をくぐり、最後に銀時が続いていった。
通された部屋も随分広かった。部屋は襖で大きく2部屋に分けられるようになっており、正面の部屋の奥は小さな庭園に続く縁側が設けられている。
まさにVIPルームというやつである。
仲居さんたちが全ての食事を運び終わったかという頃、するりという音とともに、再び襖が開けられた。
「失礼致します。お連れの方がお見えになりました」
そう言うと女性は静々とその場を退いた。
入れ替わるように現れたその男に、坂本がひらりと手を振り朗らかに迎え入れた。
「やっと来たかやー。待ちくたびれたきー、早よ入りんせ」
「おま、ヅラ!?」
銀時はその男の登場に目を剥いた。
「ヅラじゃない、桂だ」
剣心がそっと息をのむ。
青を基調にした着物と羽織を着た長髪の男だった。その腰には刀がさげられている。
「わしが呼んだんじゃ。やっぱり宴は人数が多いにこした事はないきに」
「だからって、仮にもこいつ攘夷志士だぞ。快援隊の社長が、こんなとこ見つかったらしょっぴかれるだろーが」
横目で坂本を見やる銀時。
「ふん、のろまな幕府の狗どもに遅れなどとらぬわ。全く、話があるというから来てみれば、貴様らは相変わらずだな」
す、と背筋を伸ばし、空いた席に座る桂。
「桂、小五郎殿・・・?」
入って来た桂の姿をじっと見ていた剣心が、ぽつりとこぼした。その声を聞いて桂が眉をしかめる。
「小五郎じゃない、小太郎だ」
「おろ?」
剣心がぱちくりと目を瞬いた。
「先日から銀時のところに妙な浪人が出入りしているらしいとは聞いていたが
銀時、何だこいつは。出会って早々人の名前を間違いおって」
さすが情報が早い。
「まあ、今はいいじゃねーか。とりあえず飲もーぜ、ヅラ」
「ヅラじゃない桂だ」
徳利をこれ見よがしに持ち上げて見せながら言った銀時に、いつものように名前を訂正する。
「細かい事気にするなヨ。せっかくの飯がまずくなるネ。不味すぎて喉も通らないヨ」
がばりと顔中に飯粒をつけたまま顔を上げた少女が持つのは、寿司桶である。
「いや、そう言いながら桶の山築いてるよね。全然食欲損なってないよね」
見慣れているとは言え、突っ込む側の新八も若干退き気味だ。
「この短時間でこんなに食べたのでござるか!?」
「まだまだ量の内じゃないネ。もっといけるアル」
剣心も既に何度か見ているとは言え、神楽の底知れない胃袋に目を丸くした。桂がフッと微笑む。
「さすがリーダー。健康的な食いっぷりだな」
「いや、明らかに異常だろ」
突っ込む銀時。
「やはりこどもはよく食べ、よく眠るのが一番だ。不摂生にパフェだ、いちご牛乳だと軟弱なものばかり食していると、そのうち性根が腐ってしまうぞ」
「オーイ、誰の事言ってんだそれ?まさか俺の事か?俺の事じゃねーだろーなコノヤロー」
銀時は自他ともに認める糖分王である。
「金時はまっこと甘い物好きじゃきの〜」
うんうんと同意する坂本。
「オメーはいい加減人の名前覚えやがれ!坂本(バカ)か!」
スパーンといい音を立てて坂本の頭を叩く銀時。
「アッハッハッハ!厳しいのぉ〜」
その後もしばらく子どもじみたやりとりは続いた。
そうして息ぴったりの三人のやりとりに、微笑ましく思った剣心がぽろりと一言。
「三人はご友人なのでござるか」
「ちげーよ!ただの腐れ縁だこんなもん!!」
「おろ?」
10' 8. 11 小説投稿サイト『にじファン』掲載
12' 7. 26