「ま、ここで会えたのは丁度よかった。旦那ァ、ひとつ依頼があるんですがねィ」
「依頼?テメーらから?何かヤな予感しかしねーんだけど」
銀時が明らかに嫌そうに顔をしかめた。
「大丈夫でさァ。ちょっくら俺らに稽古つけてくれないかと思いやしてね。どうせヒマでしょ?」
「どうせって何だよ」
「受けましょうよ。どうせヒマなんだし」
「そうヨ。そんで依頼金たっぷりふんだくってやるネ!」
新八、それに神楽だ。
「それに今は仕事選んでる場合じゃないです。本当、切羽詰まってんですから。家賃もたまってる事ですし」
「あんなもん、常に溜まってるだろうが」
「いや、開き直らないでください。今は緋村さんだっているんですからね。いつもと同じだったら失礼じゃないですか」
「いや、拙者はかまわないでござるよ」
「駄目ですよ、緋村さん。そんな事言ってたら、銀さん調子に乗っちゃいますからね」
「万年金欠の駄目野郎の言う事なんか聞く必要無いネ」
この二人は、果たして銀時を本当に慕っているのだろうか。時々疑いたくなる。
「で?引き受けんのか。どうなんだ」
すぱっと煙を吐きつつ、土方が言った。
「・・・わーったよ。金がねーのは本当だしなァ」
渋々ではあるが、銀時が了承する。
「本当ですかィ、旦那」
沖田の顔が、この時ばかりはほころんだ。
「さすが銀ちゃんアル。ありがたく思うヨロシ」
「ちょっと神楽ちゃん。仕事受ける身なんだから、そんな事言っちゃダメだよ」
縁があって親しく(?)はあるが、今は依頼人である。
「ま、どのみちテメーからの手ほどきなんざごめんだがな、チャイナ」
「何だとこのドS野郎!オメーこそそれが人にものを頼む態度アルか!?あんまなめてっと痛い目見んぞコノヤロー!」
「へ、上等だ。今日こそ決着つけてやらァ!」
言い合いの後、神楽は傘を、沖田は刀を手に暴れだした。
突然の展開に剣心はおろおろとするばかりだったが、そこは二人の言い合いを見慣れた新八が間に入る。
「ちょっと、二人とも!こんな往来でそんなもの振り回したら危ないよ!」
すると二人はぴたりと止まって、ぐるりと新八の方を向き、声を合わせた。
「「うるせー駄眼鏡!」」
「何でそこだけ息ぴったりなんだよぉおおおお!!」
新八のツッコミが天を突いた。
銀時が大仰にため息をつく。
「言っとくけど、銀さんの指導は厳しいよ?亀仙人も裸足で逃げ出すよ?いいの?」
面倒臭さが全面的に滲みだしている。
「旦那のやりたいようにやってくだせえ。あ、間違えた。旦那の殺りたいように土方コノヤローを殺っちゃってくだせぇ」
「総悟ォオオオオ!!」
この沖田という人物、甘い顔立ちとは裏腹に、どこまでも黒いらしい。
「じゃあ、また明日会いやしょう、旦那。そっちの二人も是非」
そう言って一足先にパトカーに乗り込む沖田。土方も、ため息をつきつつじゃあなと軽く挨拶して運転席側から乗りこむ。
ほどなくして、パトカーは再び発進した。
「・・・銀時が人を教えるゆうなんちや何年ぶりかや?」
パトカーが去って行った後で、坂本が言った。珍しく名前を間違えていない。
「うっせーよ。たまにはいいだろ。それにあいつらには、もうちょっと強くなってもらわねーとな。こっちは不安極まりねーんだよ」
がしがしと頭を掻く銀時の言葉の意味を正しく理解して、坂本が苦笑した。
要は心配なのだろう。
彼ら真選組は、銀時や自分のように、戦場に出ていたわけではない。だが、決して弱くはない。むしろ、彼らはそれなりに強い方。自分たちの強さの方が異常なのだ。
「あんまり強くしゆーと、ヅラが苦労するぜよ」
「ちょっとやそっとであいつが捕まるかよ」
「その通りじゃ。アハハハハ」
もう一人の戦友を想った言葉は、信頼であえなく一蹴されてしまった。
「今の二人の会話に出てきた、ヅラ殿とは・・・」
二人の会話を後ろで聞いていた剣心は、誰にともなく声をこぼした。
なぜか古い知人の顔が、頭をよぎる。
「ああ、桂さんですね。あの二人の古い知り合いみたいです。まあ、あんまり詳しいことは知らないんですけど」
新八が苦笑まじりに説明する。ある意味予想内、だが、ある意味予想外の名前が出た事に、剣心は目を丸くした。
「あ、念の為言っておきますけど、桂さんと銀さんたちの関係はさっきの人たちには内緒ですよ。良い人なんですけど、一応追われてる身なんで」
そうか、と納得でかえした。
どこへ来ても、維新志士と幕府側の人間は対立するものらしい。
10' 6. 5 小説投稿サイト『にじファン』掲載
12' 7. 28