第六訓 大切なものほど構いたい

「ま、ここで会えたのは丁度よかった。旦那ァ、ひとつ依頼があるんですがねィ」


「依頼?テメーらから?何かヤな予感しかしねーんだけど」

銀時が明らかに嫌そうに顔をしかめた。

「大丈夫でさァ。ちょっくら俺らに稽古つけてくれないかと思いやしてね。どうせヒマでしょ?」

「どうせって何だよ」


「受けましょうよ。どうせヒマなんだし」

「そうヨ。そんで依頼金たっぷりふんだくってやるネ!」

新八、それに神楽だ。


「それに今は仕事選んでる場合じゃないです。本当、切羽詰まってんですから。家賃もたまってる事ですし」

「あんなもん、常に溜まってるだろうが」

「いや、開き直らないでください。今は緋村さんだっているんですからね。いつもと同じだったら失礼じゃないですか」

「いや、拙者はかまわないでござるよ」


「駄目ですよ、緋村さん。そんな事言ってたら、銀さん調子に乗っちゃいますからね」

「万年金欠の駄目野郎の言う事なんか聞く必要無いネ」

この二人は、果たして銀時を本当に慕っているのだろうか。時々疑いたくなる。

「で?引き受けんのか。どうなんだ」

すぱっと煙を吐きつつ、土方が言った。


「・・・わーったよ。金がねーのは本当だしなァ」

渋々ではあるが、銀時が了承する。


「本当ですかィ、旦那」

沖田の顔が、この時ばかりはほころんだ。

「さすが銀ちゃんアル。ありがたく思うヨロシ」

「ちょっと神楽ちゃん。仕事受ける身なんだから、そんな事言っちゃダメだよ」

縁があって親しく(?)はあるが、今は依頼人である。


「ま、どのみちテメーからの手ほどきなんざごめんだがな、チャイナ」

「何だとこのドS野郎!オメーこそそれが人にものを頼む態度アルか!?あんまなめてっと痛い目見んぞコノヤロー!」

「へ、上等だ。今日こそ決着つけてやらァ!」


言い合いの後、神楽は傘を、沖田は刀を手に暴れだした。


突然の展開に剣心はおろおろとするばかりだったが、そこは二人の言い合いを見慣れた新八が間に入る。

「ちょっと、二人とも!こんな往来でそんなもの振り回したら危ないよ!」

すると二人はぴたりと止まって、ぐるりと新八の方を向き、声を合わせた。


「「うるせー駄眼鏡!」」


「何でそこだけ息ぴったりなんだよぉおおおお!!」


新八のツッコミが天を突いた。

銀時が大仰にため息をつく。

「言っとくけど、銀さんの指導は厳しいよ?亀仙人も裸足で逃げ出すよ?いいの?」

面倒臭さが全面的に滲みだしている。


「旦那のやりたいようにやってくだせえ。あ、間違えた。旦那の殺りたいように土方コノヤローを殺っちゃってくだせぇ」

「総悟ォオオオオ!!」

この沖田という人物、甘い顔立ちとは裏腹に、どこまでも黒いらしい。


「じゃあ、また明日会いやしょう、旦那。そっちの二人も是非」

そう言って一足先にパトカーに乗り込む沖田。土方も、ため息をつきつつじゃあなと軽く挨拶して運転席側から乗りこむ。


ほどなくして、パトカーは再び発進した。

「・・・銀時が人を教えるゆうなんちや何年ぶりかや?」

パトカーが去って行った後で、坂本が言った。珍しく名前を間違えていない。

「うっせーよ。たまにはいいだろ。それにあいつらには、もうちょっと強くなってもらわねーとな。こっちは不安極まりねーんだよ」

がしがしと頭を掻く銀時の言葉の意味を正しく理解して、坂本が苦笑した。


要は心配なのだろう。

彼ら真選組は、銀時や自分のように、戦場に出ていたわけではない。だが、決して弱くはない。むしろ、彼らはそれなりに強い方。自分たちの強さの方が異常なのだ。

「あんまり強くしゆーと、ヅラが苦労するぜよ」

「ちょっとやそっとであいつが捕まるかよ」

「その通りじゃ。アハハハハ」

もう一人の戦友を想った言葉は、信頼であえなく一蹴されてしまった。

「今の二人の会話に出てきた、ヅラ殿とは・・・」

二人の会話を後ろで聞いていた剣心は、誰にともなく声をこぼした。

なぜか古い知人の顔が、頭をよぎる。


「ああ、桂さんですね。あの二人の古い知り合いみたいです。まあ、あんまり詳しいことは知らないんですけど」


新八が苦笑まじりに説明する。ある意味予想内、だが、ある意味予想外の名前が出た事に、剣心は目を丸くした。

「あ、念の為言っておきますけど、桂さんと銀さんたちの関係はさっきの人たちには内緒ですよ。良い人なんですけど、一応追われてる身なんで」

そうか、と納得でかえした。

どこへ来ても、維新志士と幕府側の人間は対立するものらしい。

10' 6. 5  小説投稿サイト『にじファン』掲載
12' 7. 28

江戸の町を歩いていた万事屋一行は、陽気な男と遭遇する。

立ち話しているところに真選組の土方と沖田も加わってさらに賑やかになり・・・


<ここからあとがき>

おまけ

まだ突っ込んでなかった坂本さん


「そう言えば、そちらの御仁は・・・」


「ん?ああ、こいつは快援隊の社長の坂本ってんだ」


「海援隊の坂本・・・ まさか、坂本龍馬殿!?」


「あ?違う違う。わしゃあ龍馬じゃのーて辰馬じゃき」

「おろ?」


「全く人の名前ば間違えるなんて本当そそっかしい奴ぜよ。いかんのう人の名前ばそげに間違っちゃあ。のう、金時?」


「オメーが言うなや!!」

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誰か土佐弁を教えてください。

というか郭言葉もままならねーよ。

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